精神科領域で働く作業療法士は、どんな仕事をしているの?

ますます需要が増加する精神科

精神科は、今後ますます需要が増加すると言われています。若い世代も含めて精神疾患に悩む人は多く、ストレス社会と呼ばれてる日本。「5人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」と言われており、精神科は非常に身近になってきています。

メンタルをサポートする精神科の患者が増加していくにつれて、そこで働く専門職への需要も増すでしょう。

また、近年ではIT化が進み、AIに取って代わる職業も多いとされています。しかし医療専門職については例外でしょう。その中でも精神科については、人にしかできない領域だと言われています。数十年後を見越しても、精神科がロボット一色になるといったことは考えにくいです。

そのため、作業療法士として就職先を選ぶ際に、以下を選択肢に入れる方も増えてきています。

●精神科病院

精神疾患のある患者さんに接することが主な仕事です。例として、統合失調症・神経症・うつ病・躁鬱病・薬物やアルコール等の依存症・認知症・心身症・パーソナル障がい・てんかんなどがあります。

仕事内容は、精神的な負担の緩和や、作業プログラムによる訓練などを行います。

●精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは、病院とは違い、地域住民の精神的な健康を保持・改善するための施設です。

仕事内容は、精神疾患や依存症など福祉に関する講演や研修、また精神保健福祉職に関わる人に向けた技術指導などを行ないます。地域住民の相談窓口として、心の健康に関する様々な相談を受けることもあります。

精神領域における作業療法士の仕事

では、実際に精神領域で働く作業療法士はどういった仕事を行っているのでしょうか。

まず、患者さんの「生活のしづらさ」をアセスメントし、適切な介入により生活の質を向上させることを目的とします。具体的には、創作やレクリエーションといった作業療法活動を通して喜びや達成感を促す関わりから、より実生活で役立つ技能の獲得を目指す関わりへと幅広い関わりを持っていきます。

精神領域でなく身体領域の作業療法でも行うことではありますが、特に精神科リハビリテーションにおいては「実生活に結びつく技能獲得に関する支援」が重要となります。

理由としては、実生活に結びつく技能獲得には個人差があるので、患者さんそれぞれに個別に介入をしていくことが求められます。特に当事者の持つ生活のしづらさには認知機能障害が関連しているとされることから、高次脳機能のリハビリテーションとしての視点から生活における障害を捉えなおす関わりが作業療法士には求められます。

また他職種と同様に、カウンセリングや当事者の環境調整、プログラム提供など幅広い関わりも仕事のひとつです。

精神科におけるチーム医療

「精神科で働く専門職」と聞いて思い浮かぶのは、精神保健福祉士や臨床心理士ではないでしょうか。実際、チーム医療として作業療法士とともにそれらの専門職、そして医師や看護師が一丸となって患者さんをサポートしています。作業療法士以外のチーム医療メンバーについて見ていきましょう。

●医師

まず、医師について。医師の仕事は診察をし、治療方針を立て、薬を処方することです。医師の役割は患者さんだけではなくチーム医療全般にも大きな影響力を持っています。そして患者さんのご家族との信頼関係を維持することや、他のスタッフと連携をとること、モニターや副作用のチェックなどの観察を行うことも役割としてあります。

●保健師・看護師

そして次に、保健師・看護師です。保健師としての役割は、保健所・保健センター等の公的機関で求められるような予防的な視点を持つことです。看護師としての役割は、病院や訪問看護ステーションなどで求められるような治療的視点をもつことです。

また、日頃から体調の変化を感じたり表現したりすることや、早期に他者に相談するという対処法を身につけていけるようサポートしていくことも重要な役目と言えます。

●精神保健福祉士

次に、精神保健福祉士の役割です。精神保健福祉士は、医療・保健・福祉の様々な場面を統合したサービスによって地域生活をサポートすることが仕事です。わかりやすく言うと、患者さんと社会との懸け橋となる存在ですね。

●臨床心理士

臨床心理士の役割は、面接や観察、心理検査などを通して心理学的なアセスメントを行うことです。これが一番「精神科」と聞いてイメージする仕事かもしれません。カウンセリングを行い、コーディネーターとして関わったり、プログラムを提供したりすることが仕事です。他職種と連携を保ちながら柔軟な対応を取ることが求められます。

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理学療法士・作業療法士とひとくくりにしても、実際に働く形は人それぞれです。まず、働く場所によってその先に描けるキャリアプランが変わってくるでしょう。

働く場所は、病院やリハビリテーションセンターが多いですが、福祉施設や小児に特化した施設、訪問リハビリなど様々です。そして任されている仕事に合わせて専門的な業務も多岐にわたります。

キャリアアップを目指すなら、まずは専門性のある技能を伸ばして自分の任されている分野のスペシャリストになることでしょう。

例えば現場で主任になったり、セミナーや勉強会に参加して手技を磨き、そういったセミナーを開く側のスペシャリストになれるよう努力する道です。

技能が上がれば立場的にも出世することになり年収や待遇が良くなったり、仕事の幅が増え活躍の場が広がることにも繋がります。そして何より日々対面する患者様により良いリハビリテ―ションを提供できることになります。

技能を伸ばし、リハビリスーパーバイザーと呼ばれるスペシャリストになることができれば、新しくリハビリプログラムを開発したり後輩育成のプランを考えたりする仕事もすることができます。責任も広がりますが、自分の理想とするリハビリテーションを極められ、思い描いたリハビリテーションが実現できるため、非常にやりがいのある仕事です。

経営側へのキャリアアップや独立開業

理学療法士・作業療法士の管轄はリハビリテーションに関するところまでですが、さらにその先の病院経営や施設のマネジメントを行う方向にキャリアアップすることもできます。

大きな規模を見れば見るほど現場からは離れていってしまうことになるので、舵を切る前に「自分はどんな仕事がしたいのか?」「10年後はどういった姿で働いていたいのか?」をしっかりと考える必要があります。

大病院の経営側に一理学療法士・作業療法士が関わるようになるには道のりが遠いですが、例えば訪問リハビリテ―ション施設などで新しく別の地域にも施設を増やしたいとなったときに新施設の担当を任されたりすることはよくあります。

理学療法士・作業療法士の知識とはまた別の経営やマネジメント、経済について学ぶ必要が出てくるでしょう。こういった場合は自分の施設に対しての考えだけでなく、いろんな施設のやり方や最新情報を知って対策していくのが近道です。そのような情報を得るためにも、理学療法士・作業療法士同士の繋がりや養成学校時代の教師に相談できる環境があるとよいですね。

また、独立開業して一国一城の主になるという道もあります。ただし理学療法士・作業療法士の資格は独立開業できる資格ではないので、独立開業が可能である資格を別途取得する必要があります。独立開業権のある柔道整復師を取得して接骨院を開くケースなどは多いです。

独立開業することは非常に難しいですが、まだ世の中にないオリジナルの施設を考案し作り上げていけるため魅力的なキャリアアップの道でしょう。

理学療法士・作業療法士は常に勉強が必要な職業

スペシャリストになる道を選んでも、経営や独立開業の道を選んでも、理学療法士・作業療法士である限り常に勉強は必要です。キャリアアップを目指すのであれば猶更、医学の進歩に合わせて常に研究し、コミュニケーションスキルにおいても学びを重ね、都度新しい知識と技術を吸収していかなければなりません。

理学療法士・作業療法士を目指している段階では国家資格取得がゴールのように感じてしまいますが、一生ものの資格であることを考えると資格取得はまだまだスタートラインに立った段階と言えます。

その先何十年と業界にいる場合、最初に就職した職場だけでなく様々なジャンルの職場を渡り歩く可能性もあります。そんな中で困難に出会うこともあるかもしれませんが、資格取得を目指す段階で決意した志や一緒に頑張った仲間がいれば乗り越えられるでしょう。

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がんの緩和ケアとチームについて

がん患者さんは、がん自体の症状のほかに、痛み、倦怠感などのさまざまな身体的な症状や、落ち込み、悲しみなどの精神的な苦痛を経験します。「緩和ケア」は、がんと診断されたときから行う、身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケアです。

緩和ケアは、病院によって違いはありますが、がん診療に携わる医師、看護師などがチームとなって、がん患者さんとその家族を支援します。

まず、医師です。主治医だけでなく、緩和ケア専門医がつくこともあります。

そして、看護師。こちらも、担当看護師だけでなく、緩和ケアに関する専門的知識や技術を持った緩和ケア認定看護師がいると心強いですね。

薬剤師と管理栄養士が関わることもあります。薬剤師は痛みなどの症状をコントロールするための薬について提案や説明をします。管理栄養士は食事についてのアドバイスを行います。

ソーシャルワーカーや心理職の人が関わり、経済面や福祉制度のサポートを行ったり心理学的立場から患者さんとそのご家族を支えることもあります。

そして最後に、理学療法士と作業療法士の存在があります。がんの治療や症状によって、今までのように体が動かなくなってしまったときに、残された身体機能を最大限に活用して生活をしていくため、リハビリテーションを行っていきます。

これらのチームが一丸となって、がん患者さんに対して緩和ケアを行っていきます。今回は作業療法士にスポットを当てて、仕事内容について見ていきましょう。

作業療法士の仕事・役割について

がん患者さんへのリハビリでは、患者さんと介護する家族のQOL(quality of life)が向上することを目的としています。

ですが、ひとくちにQOLと言っても、進行がんの患者にとっては「回復して社会生活が送れるようになること」を指すとは限りません。「穏やかに残された日々を過ごすこと」「最後までできるだけ人に迷惑をかけずに生きること」などが目的の人もいます。

患者さん一人ひとりの目的を明らかにし、具体的な選択肢や道筋を与えるのが作業療法士の重要な仕事です。

例えば「一時帰宅がしたい」という患者さんの希望が、医療的に見れば体に負担がかかることであることも少なくないため、医師からはなかなかゴーサインが出ないことも多い。そんな時、医学的な知見を持ち、人の生活を作業として分析できる作業療法士は「このようにすれば、体の負荷を最小限にして患者の希望をかなえることができる」という方法を、具体的に提案することができます。

そのためにリハビリテーションのプログラムを組み立て、実施していくことによって、患者さんの希望を叶えることに繋げていきます。

また、がん医療において、患者さんの苦痛をより理解するためには、トータルペイン(全人的苦痛)の概念を理解することが重要なポイントです。

患者さんの抱える問題は身体的苦痛のみではありません。不安や抑うつなどの精神的なトラブル、家族や職業に関する社会的不安、生きる意味や死との直面などの悩みがあり、これらが複雑に絡み合っていることを意識する必要があります。これも作業療法士の重要な役割の一つです。

精神面を支えるリハビリテーション

緩和ケアを行う時期は、積極的な治療が受けられなくなった時期とも言えます。そのため、精神的にふさぎこんでしまう患者さんも多くいます。

患者さんは少し動いただけでも疲れるので動かなくなり、日常生活のさらなる制限をもたらす悪循環におちいり、やがては寝たきり(廃用症候群)になってしまいます。そして食欲不振や倦怠感がさらに増してしまう結果になります。

これらを改善するために、精神面を支えるリハビリテーションが必要になってきます。マッサージやリラクセーション、イメージ療法、アロマセラピーなど「非薬物療法」とよばれる療法を取り入れることもあります。また、在宅療法で患者さんの精神回復を優先する場合もあります。

そして、がんのリハビリは患者さんだけでなく、ご家族に対しても提供されるものです。適切な介護の方法を教え、患者さんが動きやすいように手すりをつけるなど生活環境を整備することは、介護者が自宅で看病する際の負担軽減に確実につながります。

このように、がんのリハビリテ―ションにおける作業療法士の役割は大きく、身体面・精神面の両方で患者さんを支えていきます。

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