ニーズが高まる在宅医療と作業療法士の役割とは

なぜ必要?在宅医療のこれから

在宅医療は言葉の通り、患者さんの自宅で医療行為を行うことを指します。なぜニーズが高いのかというと、「病気であっても出来るだけ住み慣れた街にいたい。自宅で家族と一緒に普通に生活したい」と思っている患者さんが多いためです。

また、高齢化社会を背景に、国の医療費は伸び続けています。その要因の一つに長期間入院というものがあります。これを抑えるためにも、入院を切り上げて自宅での医療に変更するのが好ましいとされています。実際には、平成23年度末に介護療養型医療施設の廃止が決定され、社会的入院(治療が目的で病院に留まるのではなく、治療の必要がなく長期入院を続けている状態)を減らす動きが強まっています。これによってさらに在宅医療の必要性が上がりました。

ですが、在宅医療自体も今はまだ未完成な状態です。地域の医療従事者が全員、在宅医療へのノウハウを持っているわけではありません。その一律化と底上げが今後の在宅医療の課題でしょう。

在宅医療における作業療法士の役割

では、そんな在宅医療における作業療法士の役割についてみていきましょう。作業療法士をはじめとする理学療法士や言語聴覚士といったリハビリテーションの専門職は、在宅ケアという新たな舞台で必要とされつつあります。

そもそも、リハビリテーション医学は「生活(活動)を支える医学」であるため、自宅で普通の生活を送りたい患者さんのニーズにマッチしている仕事といえるでしょう。作業療法士が目指すものは単なる機能回復訓練ではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促すことです。

在宅医療は通常の病院と違い、患者さんの生活環境の調整にはじまり、地域の中に生きがいや役割をもって生活ができるような居場所と出番づくり等、患者さんを取り巻く環境へのアプロ ーチが重要です。作業療法士には、かかりつけ医を中心とした疾患管理や再発予防、併存疾患管理 ・生活機能の評価(維持、向上、低下) ・必要に応じたリハビリテーションの実施 ・急性増悪時の対応が求められています。

その他、在宅医療の現場では、介護福祉士や医師などさまざまな専門職が関わっています。フレイルやサルコペニアから患者を守るため管理栄養士が必要になったり、口から食べる機能を保つために歯科医と関わることもあるでしょう。作業療法士としての役割だけでなく、「在宅医療」という分野に全員で取り組んでいく姿勢が必要です。

在宅医療のやりがいとは

在宅医療は、「患者さんと深く関われる」という点でやりがいを感じる職場です。一般的な病院勤務だった作業療法士が、在宅医療ができる施設へと転職するケースも多くあります。

作業療法士の目指す「生活を支える医学」という観点からいくと、患者さんの生活環境や家庭の事情へ立ち入ることができる在宅医療は魅力的でしょう。患者さんやそのご家族との距離も自然と近くなり、長い時間をかけて信頼関係を築いていくことになります。

「患者さんや家族に心から感謝してもらえている実感がある」と、在宅医療に従事する多くの作業療法士が語っています。これから作業療法士を目指す方は、ぜひ在宅医療のできる施設への就職も視野に入れてみてください。

理学療法士・作業療法士を目指す方におすすめのドラマ・映画8選

理学療法士経歴を持つ監督の映画『栞』

大分県を舞台に、理学療法士の青年が様々な境遇の患者たちや周囲の人々と向き合いながら成長していく姿を描いた人間ドラマ。理学療法士として献身的に患者のサポートに取り組んでいる真面目な青年・高野雅哉。ある日、彼が働く病院に、疎遠になっていた父・稔が入院してくる。徐々に弱っていく父の姿を目の当たりにする一方で、担当している患者の病状が悪化するなど、理学療法士として出来ることに限界を感じ無力感に苛まれる雅哉。そんな折、ラグビーの試合中に怪我をした患者を新たに担当することになった雅哉は、その患者の懸命な姿に心を動かされ、仕事への情熱を取り戻していく。主人公・雅哉役に三浦貴大。自身も理学療法士の経歴を持つ榊原有佑監督がオリジナルストーリーで描く。

 

理学療法士を大きく取り上げた映画です。理学療法士の経歴を持つ監督の作品で、命を扱う理学療法士の姿がリアルに映し出されています。理学療法士だけでなく、作業療法士を目指す方も同じリハビリ職種として必見の内容です!

聴覚を失った若者の恋愛ドラマ『オレンジデイズ』

どこにでもいそうな大学4年生・結城櫂(妻夫木聡) と、病気で4年前に聴覚を失ったことにより心の扉を閉じてしまった女の子・萩尾沙絵(柴咲コウ)のラブ・ストーリーを軸に展開される、大学の卒業を1年後に控えた5人の若者の青春ドラマである。主人公は明青学院大学文学部心理学科社会福祉心理学専攻4年。大学1年の妹・愛(岡あゆみ)と、3歳年上の彼女・真帆(小西真奈美)がいる。キャンパス内でバイオリンを弾いていた沙絵を見かけ、自身が専攻する科目で手話を扱っていたことから交流をはじめた。優しく正義感にあふれた男で、沙絵のことを大切に想い、愛している。

 

恋愛ドラマのためリハビリに関する内容はあまり出てきませんが、主人公が作業療法士を目指しており場面場面でその描写があります。車椅子の子供や老人のリハビリの補助をするシーンや、リハビリセンターのバイトに通う様子が映り、作業療法士資格試験を受けるまでがドラマでは描かれています。

ドラマを楽しんで観ながら、どこで作業療法士を目指す様子が映るのか注目して観るのも良いのではないでしょうか。

クリント・イーストウッド主演の『ミリオンダラー・ベイビー』

家族からすらも愛情を受けた事のない孤独な女性と、家族にすら愛情を見せた事のない不器用な老年の男性の間に芽生えながらも、非情な結末を迎える愛の物語である。作品の完成度の高さと従来のアメリカ映画との異質性を高く評価され全米だけでも1億ドルの興行収入を記録した。さらに、第77回アカデミー賞において、マーティン・スコセッシ監督の『アビエイター』との「巨匠対決」を制し作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞の主要4部門を独占したのを始め、多数の映画賞を受賞した。

脊髄小脳変性症を題材にしたドラマ『1リットルの涙』

木藤亜也は中学3年の時、頻繁に転んでしまうなどの体の不調を訴え、光生会病院で受診、その後医師から、手足や言葉の自由を徐々に奪われながら最後には体の運動機能を全て喪失してしまう難病「脊髄小脳変性症」と診断される。小脳、脳幹、脊髄が徐々に萎縮してしまう疾患であり、箸がうまく持てない、よく転ぶといった症状から始まり、進行するにつれて歩けなくなったり、字が書けなくなったりする。最終的には言葉も話せなくなり、寝たきりになり、最悪の場合は死に至ることもある。小脳、脳幹、脊髄が萎縮していっても大脳は正常に機能するため知能には全く障害がない。つまり、体が不自由になっていくことを自分自身がはっきりと認識できてしまうのである。彼女は、体の自由が利かなくなることと自分の意識が変わることのない現実の狭間で生き抜いていく。

 

脊髄小脳変性症という病気を持つ主人公のドラマです。だんだん歩けなくなり最後は寝たきりになる進行性の病気で、理学療法士がリハビリを担当することも実際にあります。主人公を支える作業療法士の姿が印象的で、このドラマに影響されて作業療法士の道を選んだという方も少なくありません。

身体だけでなく心もケアするのが作業療法士や理学療法士の仕事であるということが伝わってくるドラマです。

事故で半身不随になってしまった高校生『ウィニングパス』

高校生の健太はある晩、バイクを走らせていて事故を起こしてしまう。一命はとりとめたものの、脊髄損傷のため半身不随になってしまう。自分の状況が受け入れられず、親友や恋人も拒絶。死まで考える健太。しかし家族の愛情や友人に支えられ、やがて健太は退院し社会復帰を果たすが、そこにも問題がヤマ積みだった。そんな中、入院中に出会った男性に車椅子バスケットボールのチームに誘われる。健太は次第にその魅力に取りつかれ猛練習を始めるのだった。

精神科医の葛藤を描く『パッチアダムス』

1969年、生きる道を見失っていたアダムスは、自ら精神病院に入院した。しかし立ち直った彼は精神科医を目指し、ヴァージニア大学医学部に入学した。そして「笑い」を重視した療法を考え出す。
実話をもとにした感動のドラマ。町医者として12年間、15万人を越える患者を無料診療したハンター・アダムスを描いている。主役のアダムスにはロビン・ウィリアムスが扮し、「笑い」で心を治療するアダムスの精神をみごとに具現化した。笑いと優しさの伝染力が、時には病気の憂うつに勝る。そんな「パッチ」アダムスの「葛藤する時代」を克明に描いてゆく。アダムスが恋をする女学生役のモニカ・ポッターの清楚な美しさと、学友を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンにも注目したい。

パーキンソン病の患者と医師の物語『レナードの朝』

神経科医オリバー・サックスが実体験をつづった著作をもとに、30年にわたる昏睡から目覚めた患者と彼を救おうとする医師の交流を、ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズの共演で描いたヒューマンドラマ。1969年。ニューヨーク、ブロンクスにある慢性神経病患者専門の病院に赴任したセイヤー医師は、話すことも動くこともできない患者たちに反射神経が残っていることに気づき、訓練によって彼らの生気を取り戻すことに成功する。ある日彼は、30年前にこの病院に入院して以来ずっと眠り続けている嗜眠性脳炎の患者レナードに、まだ認可されていないパーキンソン病の新薬を投与する。そしてある朝、レナードはついに目を覚ます。監督は「ビッグ」「プリティ・リーグ」のペニー・マーシャル。

半身不随の富豪と介護者の物語『最強の二人』

パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった富豪の男と、介護役として男に雇われた刑務所を出たばかりの黒人青年の交流を、笑いと涙を交えて描く実話がもとのドラマ。まったく共通点のない2人は衝突しあいながらも、やがて互いを受け入れ、友情を育んでいく。2011年・第24回東京国際映画祭で東京サクラグランプリ(最優秀作品賞)と最優秀男優賞をダブル受賞した。

以上、理学療法士・作業療法士を目指している方にお勧めのドラマ・映画8選をピックアップしてみました。勉強の合間の息抜きや、モチベーションを上げるためにもぜひ見てみてくださいね。
参考サイト:映画.com

作業療法で行う編み物や手芸で得られる効果とスプールウィービング

作業療法ってどんなことをするの?

作業療法では、いろいろな作業活動を治療手段として使用します。折り紙や陶芸、色塗りや籐細工、そして編み物などの手芸があります。このような作業療法の手段を、患者様によってどれを提供するのか、どのくらいの難易度で行ってもらうのかなど、考えながら実施します。

例えば、認知症の方には、日付や場所など現実的な項目を含むものを行うことで自分の今の状況を少しでも認識できるような機会を提供するようにする。また、毎日同じ作業を行うことで仕事として習慣化するようにする、昔行っていた作業を行い思い出す機会をつくるなどの方法があります。

また、片麻痺の方には、今の手の機能をどれだけ活かすことが出来るようにするかが重要となります。まずは両手で行う簡単な作業から始めて、徐々に難易度を上げていくようにしています。

その中でも編み物や手芸は、割と多くの患者さんに実施しています。「力強く握る」「引っ張る」などの作業があり筋力低下に有効であることと、人によってやり方や手順を変えやすいこと、自宅でも手軽にリハビリテーションをおこなうことができることが理由です。

作業療法で使われる定番「スプールウィービング」

作業療法の定番は、「スプールウィービング」を使ったものでしょう。これは作業療法の教科書にのるほど定番です。

スプールウィービングを使えば片麻痺の方、手の不自由な方・高齢者でも帽子・マフラー・編みぐるみを編むことができます。指で毛糸を摘む動作ができると、スプールウィービングで編むことができます。実際にリハビリの現場で行われている手指の訓練方法でもあります。この単純動作を繰り返すだけで帽子やマフラー、編みぐるみが片手で編めます。

これは1975 年に松田美穂作業療法士が考案して以来、ほぼ変わらず使われているそうです。対象者が幅広いことも理由の一つですが、編みはじめや編み終わりの仕上げの手助けをしてもらうことができ、人間関係の構築になることから人気が出ました。作品の相談や家族や友人へのプレゼント、バザーへの出店なども人との関わりを促進しますね。

編み物・手芸から得られる効果

編み物や手芸からは、さまざまな効果を得ることができます。まず1つは、マフラーやセーターなどの完成度の高い作品により満足感、達成感、自信が持てることです。これは一つの大きなリハビリテーションの効果と言えます。

そして、編み物は一定のリズムで同じ動作を繰り返す動作です。これは、瞑想と同じ効果を得ることが期待されています。さらに気分を調節するホルモンであるセロトニンの放出の増強につながることがわかっています。これは不安やストレスの軽減、うつ病の症状緩和につながります。

編み物はその工程から非常に手指、上肢、姿勢の保持能力が求められます。編み目を間違わないように注意をし、指先の感覚と手元が狂わないように姿勢を保持しながら操作をします。これによって運動機能の向上につながるでしょう。認知症の予防も期待されます。編み物は非常に脳全体を刺激するのに最適な作業活動です。

このように、編み物をはじめとする手芸は作業療法士にとってとても重要な医療行為です。昔から変わらず行われているリハビリではありますが、今後さらに幅を広げ効果を高めていきたいですね。