2026.03.08
理学療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 鍋城 武志(理学療法士)
理学療法士は、医師の指示のもとでリハビリを行う専門職ですが、業務上どこまでが医療行為として許されるのか、その範囲を正確に理解しておくことが不可欠です。
本記事では、理学療法士の業務範囲の法的根拠や、具体的な業務の可否、さらには作業療法士といった他職種との役割の違いについて解説します。
安全なリハビリテーションを提供するため、応用的な動作能力や社会適応能力の回復を目的とする作業との相違点も踏まえ、自身の業務範囲を正しく把握しましょう。
理学療法は、医師法第17条で原則として医師にのみ許可される「医業」の一部を、医師の指示のもとで実施する「診療の補助」に位置づけられています。
そのため、理学療法士が行うリハビリは広義の医療行為にあたります。
ただし、すべての医療行為を行えるわけではなく、その業務は理学療法士及び作業療法士法で定められた範囲内に限定されます。
理学療法士及び作業療法士法第二条では、理学療法を「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること」と定義しています。
この「運動療法」と「物理療法」が、理学療法士が行うリハビリの法的根拠であり、業務範囲の基盤となります。
理学療法士が行う理学療法のうち、診療の補助に該当するものは、理学療法士及び作業療法士法第十五条に基づき、医師の指示の下に行われます。診療の補助に該当しない業務の範囲は、法律で定義された理学療法の領域内に限られます。理学療法士が自己の判断で業務範囲を拡大解釈することは認められておらず、診療の補助に該当するすべてのリハビリテーションは医師による診断と指示が起点となります。
実際の臨床現場では、法律の定義だけでは判断に迷う場面に遭遇することが少なくありません。
ここでは、理学療法士の業務範囲に含まれる行為、明確に禁止されている「医行為」、そして判断が分かれるグレーゾーンの行為について、具体的なリハビリの事例を挙げてその境界線を解説します。
理学療法士が医師の指示のもとで行える行為には、関節可動域訓練や筋力増強運動といった「運動療法」、温熱や電気刺激を用いる「物理療法」、そして歩行や起き上がりなどの「日常生活活動(ADL)訓練」が含まれます。安全なリハビリ実施のためのバイタルサイン測定も、リハビリテーションの一環として業務範囲内と解釈されています。
理学療法士が単独で行うことができない絶対的医行為として、注射、採血、薬の処方や投与、診断、外科的処置などが挙げられます。
また、褥瘡に対する薬剤の塗布や壊死組織の除去、原則としての気管内への喀痰吸引も業務範囲外です。
これらの行為は、たとえ医師の具体的な指示があったとしても、理学療法士の資格では実施できず、リハビリの範疇を超えます。
爪切り(ただし肥厚・巻き爪でない場合)、湿布の貼付、簡単な擦り傷への絆創膏貼付などは、判断に迷うグレーゾーンの行為とされています。
これらの行為は、厚生労働省の通知などにより、状況によっては医療行為とされない場合もありますが、患者の状態によってはリスクを伴います。
自己判断で実施せず、必ず医師や看護師に指示を仰ぎ、施設内のルールを確認することが、安全なリハビリ提供のために不可欠です。
チーム医療を実践する上で、各専門職が自身の役割と法的に定められた業務範囲を理解することは極めて重要です。特に、他の医療専門職との連携においては、それぞれの専門職の業務範囲を正確に把握し、適切に協働する必要があります。
理学療法士と作業療法士は、共に「理学療法士及び作業療法士法」に基づく国家資格ですが、その専門性が異なります。
理学療法士が「立つ」「歩く」といった基本的動作能力の回復を主な目的とするのに対し、作業療法士は食事、着替え、家事といった、より応用的・社会的な活動(作業)を通じて、その人らしい生活を再建することを支援します。
リハビリテーションにおける目的の焦点に明確な違いが存在します。
看護師も理学療法士と同様に「診療の補助」を行いますが、その根拠となる法律と認められている範囲が異なります。
看護師の診療の補助には、採血や注射、点滴といった侵襲性の高い行為が含まれており、より広範です。
一方で、理学療法士の診療の補助は、あくまで運動療法や物理療法といったリハビリテーションの領域に限定されており、業務範囲は明確に区別されます。
理学療法士が自身の業務範囲を逸脱することなく、安全にリハビリを提供するためには、日々の業務において常に意識すべき複数の重要な注意点があります。
これらの事項を遵守することが、患者の安全を守るだけでなく、自分自身の専門職としてのキャリアを保護することにも直結します。
すべての理学療法は、医師の具体的な指示に基づいて行われるのが大原則です。
指示内容が曖昧であったり、自身の業務範囲を超える可能性を感じたりした場合は、自己判断せず、必ずカルテ等で内容を再確認するか、直接医師に問い合わせることが求められます。
指示なくリハビリ内容を変更・追加することは、業務範囲の逸脱につながる危険性があります。
法律上は業務範囲内とされている行為であっても、自身の知識や技術が不十分な場合は、無理に実施すべきではありません。
特に、習熟していない手技や新しい物理療法機器を扱う際には、十分な学習や研修が不可欠となります。
常に患者の安全を最優先に考え、自信がないリハビリについては先輩や医師に相談し、適切な指導を仰ぐ姿勢が重要です。
医師の働き方改革を背景に、これまで医師が担ってきた業務の一部を他の医療専門職へ移管する「タスク・シフト/シェア」が推進されています。
これにより、理学療法士が診断書の代行入力など、新たな役割を担うケースも出てきました。
ただし、これは法的な業務範囲自体が拡大したわけではないため、最新の通知やガイドラインを確認し、許容されるリハビリ関連業務の範囲を正しく理解しておく必要があります。
ここでは、理学療法士の医療行為の範囲について、特に臨床現場で頻繁に生じる疑問とその回答をまとめました。
具体的なリハビリの場面を想定し、適切な判断を下すための参考にしてください。
医師がいない場での緊急時は、心肺蘇生やAEDの使用といった一次救命処置が最優先です。
これは医療資格の有無を問わず誰でも行えます。
同時に、速やかに主治医や訪問看護ステーション、救急に連絡し指示を仰ぎます。
理学療法士独自の判断による投薬や医療的処置はできません。
医療行為にはあたりません。
安全にリハビリを進めるための情報収集として、血圧、脈拍、体温、経皮적動脈血酸素飽和度などを測定することは、理学療法士の業務範囲内です。
ただし、その測定結果から病名を診断することはできず、異常値が確認された場合は医師や看護師への報告が必要です。
可能です。
社会福祉士及び介護福祉士法に定められた喀痰吸引等研修を修了し、都道府県から認定特定行為業務従事者として認定されれば実施できます。
ただし、これは理学療法士の固有業務としてではなく、介護職員等と同様の位置づけで可能になる行為です。
理学療法士が行う行為は、医師の指示のもとで実施される「診療の補助」であり、その範囲は法律によって厳密に定められています。
注射や診断といった医行為は、理学療法士の業務範囲外です。
安全なリハビリを提供するためには、自身の業務範囲を正確に把握し、判断に迷う場合は必ず医師や看護師に確認することが不可欠です。
また、作業療法士をはじめとする他職種との役割の違いを理解し、チーム医療の一員として連携していく姿勢が求められます。
監修:日本リハビリテーション専門学校 鍋城 武志(理学療法士)
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