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理学療法士向けICFの書き方|症例・疾患別のリハビリ具体例

2026.03.03

理学療法

 

 

 

理学療法士向けICFの書き方|症例・疾患別のリハビリ具体例

監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)

 

理学療法士が臨床や実習で用いるICF(国際生活機能分類)について、基本的な概念から具体的な書き方までを解説します。
ICFの6つの構成要素ごとに記載のポイントを整理し、脳梗塞や大腿骨頸部骨折といった症例・疾患別のリハビリテーションプランへの応用例を提示することで、実践的なICFシート作成を支援します。
この記事を通じて、評価から目標設定、多職種連携まで一貫して活用できるICFの記述方法の習得を目指します。

 

 

ICF(国際生活機能分類)とは?リハビリにおける目的と全体像

ICF(国際生活機能分類)とは、人間の「生活機能」と「障害」に関する国際的な分類基準です。
2001年に世界保健機関(WHO)で採択され、特定のリハビリ分野だけでなく医療・保健・福祉・教育など幅広い領域で活用されています。
ICFの大きな特徴は、病気やケガそのもの(健康状態)だけでなく、個人の生活機能(心身機能、活動、参加)と、それらに影響を及ぼす背景因子(環境因子、個人因子)という多角的な視点から対象者を全人的に捉える点にあります。

 

 

【項目別】ICFの書き方を6つの構成要素に分けて徹底解説

ICFは「健康状態」「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」という6つの構成要素から成り立っています。
これらは単独で存在するのではなく、相互に影響し合っているのが特徴です。
各項目にどのような情報を、どう分類して記載するのかを理解することが、対象者の全体像を正確に把握する第一歩となります。

ここでは、それぞれの構成要素の定義と、具体的な記載内容について詳しく解説していきます。

 

 

①健康状態:疾患名や病態、既往歴を記載する

「健康状態」の項目には、対象者が抱える疾患名や病名、ケガの診断名などを記載します。
例えば、「脳梗塞(右中大脳動脈領域)」や「大腿骨頸部骨折(術後)」などがこれにあたります。
これらに加えて、高血圧や糖尿病といった合併症、過去の病歴や手術歴などの既往歴も重要な情報として含めます。

診断名だけでなく、現在の病状や治療の経過、服薬状況といった医学的な情報を客観的に整理する項目です。
ICFの他のすべての構成要素に影響を与える出発点となるため、正確な医学的情報を収集し、簡潔にまとめることが求められます。

 

 

卒業後に差がつく実践的な学び

 

 

②心身機能・身体構造:身体の機能障害や精神状態を客観的に記述する

「心身機能・身体構造」は、手足の動きや精神の働きといった身体レベルの機能と、身体部位の構造的な状態を指します。
理学療法評価で得られる客観的な情報が主に記載される項目です。
例えば、関節可動域制限、筋力低下、麻痺の程度、痛み、バランス能力、持久力、高次脳機能障害(注意障害、記憶障害など)、意欲の低下といった機能的な問題を具体的に記述します。

可能であれば、MMT(徒手筋力テスト)やROM(関節可動域測定)などの評価結果を数値で示すことで、より客観性が高まります。
身体構造には、四肢の切断や関節の変形といった解剖学的な変化が含まれます。

 

 

③活動:日常生活における具体的な動作能力(ADL・IADL)を評価する

「活動」とは、生活上の目的を持った具体的な行為や動作遂行能力を指します。
食事、着替え、トイレ、入浴といったADL(日常生活動作)や、調理、洗濯、買い物、公共交通機関の利用といった、より複雑なIADL(手段的日常生活動作)がこれに含まれます。
この項目では、「できる活動(能力)」と「している活動(実行状況)」の2つの側面から評価することが重要です。

例えば、リハビリ室では杖歩行が自立していても(能力)、病棟では転倒への不安から車椅子で移動している(実行状況)といった乖離を捉えます。
どのような作業や動作が、どの程度の介助で、どれくらいの時間で可能なのかを具体的に記述します。

 

 

④参加:家庭や社会での役割や生活場面への関わり方を捉える

「参加」は、家庭内での役割、仕事、学業、趣味、地域活動、友人との交流など、実社会における生活場面へ関与している状態を指します。
これは、その人らしい人生や生きがいと直結する非常に重要な項目です。
「活動」が個々の動作能力を評価するのに対し、「参加」はそれらの活動が実際の生活の中でどのような意味や役割を持っているかを捉えます。

「歩く」ことは活動ですが、「孫の運動会を見に行く」「町内会の集まりに参加する」といった目的や社会的文脈が伴うと参加になります。
本人の希望や価値観が強く反映されるため、リハビリテーションの最終的なゴール設定に直結する要素です。

 

 

⑤環境因子:物的・人的・社会的な環境が与える影響を整理する

「環境因子」は、対象者を取り巻く物理的、社会的、制度的な環境を指し、生活機能に対して促進因子にも阻害因子にもなり得ます。
物理的環境には、家屋構造(段差、手すりの有無)、福祉用具、交通機関などが含まれます。
社会的環境には、家族や友人のサポート、介助者の存在、職場の理解といった人的な関係性が挙げられます。

制度的環境としては、医療保険や介護保険サービス、障害者手帳などの社会保障制度が該当します。
これらの環境が、対象者の活動や参加をどのように後押ししているか(促進因子)、あるいは妨げているか(阻害因子)を客観的に評価し、整理することが重要です。

 

 

卒業後に差がつく実践的な学び

 

 

⑥個人因子:年齢、性格、価値観など固有の背景を考慮に入れる

「個人因子」とは、その人固有の背景や特性であり、健康状態や障害とは直接関係しない内的な要素を指します。
具体的には、年齢、性別、民族、生活歴、職歴、教育歴、ライフスタイル、価値観、信念、性格、趣味、対処能力(コーピングスタイル)などが含まれます。
例えば、リハビリテーションに対する意欲の高さや、家族のために頑張りたいという動機付け、あるいは過去の経験からくる回復への悲観的な考えなどがこれにあたります。

これらの情報は、目標設定やアプローチ方法を個別化する上で不可欠であり、対象者とのコミュニケーションを通じて丁寧に聴取し、理解することが求められます。

 

 

【症例・疾患別】ICFシートの具体的な書き方とリハビリプランへの応用例

ICFの各構成要素を理解した上で、次に重要となるのが実際の臨床場面での活用です。
ここでは、理学療法士が担当することの多い脳梗塞、大腿骨頸部骨折、パーキンソン病といった代表的な疾患を例に挙げ、ICFシートの具体的な書き方と、それらを基にしたリハビリテーションプランへの応用方法を解説します。

症例を通して、各項目がどのように関連し合い、アプローチの優先順位付けに繋がるのかを学びます。

 

 

症例1:脳梗塞(片麻痺)患者のリハビリにおけるICF記入例

健康状態には「左被殻出血による右片麻痺」、心身機能には「右上下肢の筋力低下(MMT2レベル)、感覚障害、構音障害」を記載します。
活動のマイナス面として「寝返り・起き上がりに介助が必要、食事動作に時間がかかる」、プラス面として「左手での整容動作は可能」などが挙げられます。
参加では「趣味の囲碁仲間との交流が途絶えた」「復職困難」といった制約を記述します。
環境因子として、促進因子に「同居妻の介護協力」、阻害因子に「自宅玄関の段差」を整理します。

個人因子には「60歳男性、元教師、復職意欲が高い」といった情報を加えます。
これらの情報から、妻への介助方法の指導や玄関の段差解消といった環境調整と、復職という目標に向けた右上肢機能訓練やADL練習を計画します。

 

 

症例2:大腿骨頸部骨折後の高齢者におけるICF記入例

健康状態に「右大腿骨頸部骨折(人工骨頭置換術後)」と「骨粗鬆症」を記載します。
心身機能には「右股関節の疼痛、可動域制限、下肢筋力低下」を、活動には「歩行器での屋内移動は自立しているが、屋外歩行は不安定」「浴槽をまたげない」などを挙げます。
参加の制約として「近所のスーパーへ買い物に行けない」「友人との旅行に行けなくなった」といった点を整理します。

環境因子は、促進因子が「手すり設置済みの廊下」、阻害因子が「和式トイレ」です。
個人因子として「80歳女性、独居、料理が趣味」といった情報を加えます。
これらの情報から、疼痛管理と筋力強化に加え、浴槽のまたぎ動作練習、社会参加の再開を目指した屋外歩行訓練、洋式トイレへの改修提案などをリハビリプランに組み込みます。

 

 

卒業後に差がつく実践的な学び

 

 

症例3:パーキンソン病患者の在宅生活を想定したICF記入例

健康状態に「パーキンソン病(Hoehn&Yahr stageⅢ)」を記載します。
心身機能には「安静時振戦、筋固縮、すくみ足、姿勢反射障害」といった特有の症状を記述します。
活動面では「歩行開始時にすくみ足が出現する」「寝返りに時間がかかる」「薬の管理が複雑」といった課題を挙げます。

参加では「デイサービスに通っていたが、転倒を恐れて休みがちになっている」といった生活範囲の縮小を捉えます。
環境因子として、促進因子に「訪問リハビリの利用、家族の協力」、阻害因子に「室内に物が散乱している」を整理します。
個人因子には「真面目な性格、日課を大切にする」と記載します。
これらから、すくみ足対策(目印の設置など)、生活リズムに合わせたリハビリ提供、室内環境の整備などを計画し、安全な在宅生活の継続とデイサービス参加の再開を支援します。

 

 

ICFをリハビリの目標設定や情報共有に活かす3つのポイント

ICFは、単に患者の状態を分類・整理するためのシートではありません。
その情報をいかに分析し、日々のリハビリテーションに活かすかが重要です。
特に、問題の関連性を可視化すること、生活を見据えたゴール設定を行うこと、多職種間での共通言語として用いること、という3つのポイントを押さえることで、ICFはより強力な臨床ツールとなります。

ここでは、ICFを実践的に活用するための具体的な方法を解説します。

 

 

ポイント1:各項目を矢印でつなぎ、問題の関連性を可視化する

ICFシートを作成する際は、各項目に挙げた情報を個別に捉えるのではなく、それらの相互関係を矢印で結びつけてみることが極めて重要です。
例えば、「心身機能」である下肢筋力の低下が、「活動」である歩行能力の低下を引き起こし、それが「参加」である買い物に行けないという制約に繋がっている、といった因果関係を明確にします。
また、家族の協力(環境因子)がリハビリへの意欲(個人因子)を高め、活動の改善を促すといった相互作用も考えられます。

このように問題の構造を可視化することで、どこにアプローチすれば最も効果的に全体の問題を解決できるのか、介入の優先順位を論理的に判断できます。

 

 

ポイント2:「参加」から逆算してリハビリの最終ゴールを設定する

リハビリテーションの最終的な目標は、単に関節が動くようになる、筋力が強くなるといった心身機能の改善だけではありません。
その人らしい生活を取り戻す、つまり「参加」のレベルでの目標達成が不可欠です。
ICFを活用する際は、まず本人が何をしたいのか、どのような生活を送りたいのかという「参加」レベルでの希望を明確にします。

例えば、「もう一度、畑仕事がしたい」という目標を立て、そのために必要な「活動(しゃがむ、立つ、歩くなど)」は何か、さらにその活動を可能にするための「心身機能(下肢筋力、バランス能力など)」は何か、と逆算して短期・中期目標を設定します。
このアプローチにより、本人のモチベーションを高め、より意味のあるリハビリテーションを提供できます。

 

 

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ポイント3:多職種カンファレンスで共通言語として活用する方法

リハビリテーションは、理学療法士だけでなく、医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなど多くの専門職が関わるチームアプローチです。
ICFは、これらの多職種が対象者の情報を共有し、共通の理解を持つための優れた「共通言語」として機能します。
例えば、カンファレンスでICFシートを用いることで、看護師は病棟での「活動」の様子を、言語聴覚士はコミュニケーションや嚥下に関する「心身機能」を、ソーシャルワーカーは利用可能な社会資源という「環境因子」を、それぞれ専門的な視点からICFの枠組みに沿って報告できます。

これにより、情報の抜け漏れがなくなり、チーム全体で一貫した目標に向かって連携することが可能になります。

 

 

理学療法士のICFの書き方に関するよくある質問

ここでは、理学療法士や学生がICFシートを作成する際によく直面する疑問や悩みについて、Q&A形式で回答します。
「活動」と「参加」の具体的な区別の仕方、プラス面とマイナス面のバランスの取れた記述方法、実習レポートで求められる記載の詳しさなど、実践的なポイントを簡潔に解説することで、日々のICF作成における迷いを解消します。

 

 

ICFの「活動」と「参加」はどうやって区別すればいいですか?

「活動」は歩行や食事などの個人の生活行為そのものを指し、「参加」は仕事や趣味といった社会的役割を伴う生活への関わりを指します。
「歩く」は活動ですが、「友人と買い物に行く」のように目的や役割が加わると参加と捉えるのが一般的です。

文脈によってどちらにも分類されうるため、行為そのものか、人生における役割や関わりか、という視点で区別します。

 

 

プラス面(強み)とマイナス面(課題)はどのように書けばいいですか?

マイナス面(機能障害、活動制限)だけでなく、プラス面(残存機能、遂行可能な活動)を必ず併記することが重要です。
これにより、本人の強みを活かしたリハビリ計画の立案が可能になります。
例えば、「右手での書字は困難」に対し、「左手でパソコン入力は可能」のように、課題と強みを具体的に対比させて記述すると分かりやすくなります。

 

 

実習レポートでは、ICFの各項目をどのくらいの詳しさで書くべきですか?

実習のレポートでは、評価結果に基づいた客観的な事実を具体的に記載することが求められます。
なぜその項目に分類したのか、根拠となる評価(ROM、MMT、FIMなど)の数値を明確に示し、後の統合と解釈(考察)に繋がるように詳細に記述する必要があります。
担当している症例の問題点を明らかにする上で、特に重要だと考える項目は手厚く記載します。

 

 

まとめ

ICFは、理学療法士が対象者の状態を多角的に評価し、個別性の高いリハビリテーションを計画・実践するための国際的な共通言語です。
6つの構成要素(健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子)を正しく理解し、それらの相互関係を分析することが重要になります。
各項目をただ埋めるだけでなく、情報を統合的に解釈し、対象者の希望する生活(参加)から逆算して目標を設定する思考プロセスが求められます。

多職種と連携する際の基盤ともなり、チーム医療の質を高める上でも不可欠なツールです。

 

監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)

 

 

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