2026.02.17
理学療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)
理学療法士として働く中で、将来のキャリアについて不安を感じていませんか。現在の職場環境に悩みを抱え、多くの人が辞めたいと感じる理由や、実際に辞めた後のキャリアを知りたい方もいるでしょう。この記事では、理学療法士の離職率に関する客観的なデータや、他職種との比較、退職理由を通して、その後の多様なキャリアパスについて詳しく解説します。現状を把握し、自身のキャリアを考えるための参考にしてください。
厚生労働省の2024年雇用動向調査(令和5年(2023年)雇用動向調査(2024年公表))によると、医療・福祉分野の離職率は16.9%であり、全産業平均の離職率14.2%を上回っています。※この数字は医療・福祉専門職全体のものであり、理学療法士単体の数値ではない点に留意してください。
また、新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)では、医療・福祉分野の3年以内離職率は高卒で49.2%、大卒で40.8%と、全産業平均(高卒37.9%、大卒33.8%)を上回っています。
そのため、理学療法士として働く上で、一部の職場では人の入れ替わりが激しいと感じる場面があるのも事実です。
理学療法士の離職率は、働く分野によって大きく異なります。
特に、病院やクリニックといった医療分野と、介護老人保健施設やデイサービスなどの介護福祉分野では、働き方や待遇、求められる役割が違うため、定着率にも差が生じます。
質の高いリハビリテーションを提供するためには、それぞれの分野の特性を理解し、自身がどのような環境でキャリアを築きたいのかを明確にすることが重要です。
ここでは、分野ごとの離職率の傾向とその背景を解説します。
医療分野の離職率は、介護福祉分野と比較して一概に低いとは言えません。厚生労働省の2022年の雇用動向調査では、医療・福祉業界全体の離職率は16.4%であり、全産業平均の11.9%と比較して高い傾向にあります。ただし、日本看護協会の2022年度の調査では、常勤看護師の離職率は11.8%と全産業平均を下回っており、職種によって状況は異なります。
特に規模の大きい病院では、教育制度や研修プログラムが充実しており、専門性を高めやすい環境が整っていることが多いです。福利厚生が手厚い点も定着率の高さにつながっています。
ただし、急性期病院などでは業務が多忙で高い専門性が求められるため、プレッシャーから離職を考える人もいます。一方で、クリニックは比較的残業が少なく、プライベートとの両立がしやすい環境が多いですが、学べる症例が限られることからスキルアップを求めて転職するケースも見られます。
介護老人保健施設やデイサービスといった介護福祉分野における理学療法士の離職率は、過去の調査では医療機関と比較して高い傾向にあるとされていました。しかし、近年の介護職全体の離職率は全産業平均と比較して低い水準にあります。また、施設形態別に見ても、介護老人保健施設や通所介護(デイサービス)の離職率は、他の介護施設形態や全産業平均と比較して突出して高いとは言えない状況です。
この背景には、医療分野に比べて給与水準が低いことや、身体的な介助業務が多く負担が大きいことが挙げられます。また、機能維持を目的としたリハビリが中心となるため、治療や改善を志向する理学療法士にとっては、業務内容に物足りなさを感じる場合があります。
介護業界全体の人手不足やそれに伴う業務量の多さも、理学療法士の離職に影響を与える一因と考えられています。こうした要因から、より良い待遇や専門性を求めて医療分野へ移る理学療法士も少なくありません。
理学療法士が「辞めたい」と感じる背景には、ネガティブな理由からポジティブな動機まで様々です。
給与や待遇といった労働条件への不満、職場の人間関係の悩みは多くの職種に共通する退職理由ですが、理学療法士ならではのキャリアに関する悩みも存在します。
ここでは、理学療法士が退職を決意する主な理由を掘り下げ、それぞれの具体的な内容について解説します。
自身の状況と照らし合わせながら、現状を客観的に見つめ直すきっかけにしてください。
理学療法士の給与は、診療報酬制度に基づいており、個人の努力が直接的な昇給に結びつきにくい構造があります。
そのため、経験年数を重ねても年収が上がりにくく、将来的な経済面に不安を感じて離職を考える人が少なくありません。
特に、昇給テーブルが明確でなかったり、基本給が低く設定されていたりする職場では、他の施設との待遇差を感じやすくなります。
また、退職金制度や福利厚生が不十分であることも、長期的なキャリア形成を見据えた際に、転職を後押しする一因となる場合があります。
理学療法士の仕事は、医師や看護師、他の療法士など、多職種とチームで連携して進める必要があります。
そのため、スタッフ間のコミュニケーションが円滑でないと、ストレスを感じやすくなります。
特に、上司との意見の対立や、同僚とのリハビリ方針の違い、職場の派閥などが原因で、働きにくさを感じてしまうケースは少なくありません。
リハビリテーション科内という比較的狭いコミュニティでの人間関係が悪化すると、日々の業務に支障をきたし、精神的な負担が大きくなることから退職を決意する人もいます。
退職理由には、ネガティブなものだけでなく、自身の成長を求める前向きな動機も多くあります。
現在の職場で特定の疾患や分野の経験を積む中で、より専門性を深めたい、あるいは異なる領域の知識や技術を習得したいと考えるようになるケースです。
例えば、整形外科クリニックで経験を積んだ後に大学病院でより重篤な症例を学びたい、あるいは特定の研究分野に進みたいといった目標が生まれることがあります。
学校での学びが、その後の昇給(専門性向上)の土台になる可能性もあります。
こうしたスキルアップへの意欲は、現職の環境では実現が難しい場合に、新たな職場への転職という選択につながります。
理学療法士の業務には、患者の身体を支えたり、移乗を介助したりと、体力を要する場面が多く含まれます。
特に、回復期病棟や介護施設などでは、一日に何度もこうした身体的介助を行うため、腰痛をはじめとする身体の不調をきたしやすい職種です。
慢性的な身体の痛みを抱えながら仕事を続けることは困難であり、自身の健康を守るために、身体的負担の少ない職場への転職を考えるきっかけになります。
本校では、自身の体に負担をかけないボディメカニクスの技術を基礎から徹底して学びます。
デスクワーク中心の業務や、より負担の少ない領域へのキャリアチェンジを検討する人もいます。
結婚や出産、育児といったライフステージの変化は、働き方を見直す大きなきっかけとなります。
理学療法士は女性の割合が高い職種であり、産休・育休制度の取得しやすさや、復帰後のサポート体制が重要です。
しかし、職場によっては時短勤務の制度が整っていなかったり、子育てへの理解が得られにくかったりする場合があります。
そのため、家庭との両立が難しいと感じ、退職やパートタイムへの変更、あるいは子育て支援が手厚い職場への転職を選択する女性理学療法士は少なくありません。
理学療法士の資格を活かせる道は、病院や施設で臨床業務を行うだけではありません。
退職したその後には、これまでの経験を土台に、より専門性を高めたり、新しい分野に挑戦したりと多様なキャリアパスが広がっています。
資格や知識を活かして一般企業へ転職する道や、独立開業という選択肢もあります。
ここでは、理学療法士が退職した後の具体的なキャリアの選択肢を紹介し、それぞれの働き方や可能性について解説します。
理学療法士が退職後に選ぶ最も一般的なキャリアパスは、別の医療機関や施設へ転職することです。
これまでの臨床経験を活かし、給与や休日などの待遇改善を目指すケースが多く見られます。
また、急性期病院から回復期リハビリテーション病院へ移り、患者の在宅復帰までをじっくり支援したいと考える人や、逆により専門的な知識が求められる環境へ挑戦する人もいます。
自分の目指す理学療法士像やライフプランに合わせて、職場を変えることでキャリアを継続していく選択肢です。
医療保険や介護保険の枠組みにとらわれず、新しい領域へ転職して活躍の場を広げる理学療法士も増えています。
特に、在宅医療の需要の高まりを受け、訪問リハビリテーションの分野は注目されています。
利用者一人ひとりの生活に密着したサポートができる点にやりがいを感じる人が多いです。
また、整体院やパーソナルトレーニングジムといった自費分野で、専門知識を活かしてコンディショニングやパフォーマンス向上を支援する働き方もあります。
自身のスキルを直接的な価値として提供できるのが魅力です。
臨床現場を離れ、理学療法士としての専門知識を活かして一般企業へ転職するキャリアパスも存在します。
例えば、医療機器メーカーで製品開発や営業として臨床現場のニーズを伝えたり、福祉用具の専門相談員として利用者に最適な用具を提案したりする仕事があります。
ほかにも、保険会社の査定担当や、ヘルスケア関連企業のコンテンツ監修など、活躍の場は多岐にわたります。
臨床とは異なる視点から医療や健康に貢献できる、やりがいのある選択肢の一つです。
臨床経験や専門スキルを積み重ねた後、脱サラして独立・開業する理学療法士もいます。
医療行為としての理学療法ではなく、健康増進やボディケアの観点からの独立で、整体院やコンディショニングサロン、あるいはデイサービスなどを立ち上げ、自分の理想とするサービスを提供する道です。
このキャリアパスは、経営に関する知識や集客スキルも必要となるため簡単ではありませんが、働き方や収入を自分でコントロールできる大きな魅力があります。
地域貢献や特定のニーズに応えることに強い情熱を持つ人にとって、非常にやりがいのある選択肢と言えます。
転職を成功させ、長く働き続けられる職場を見つけるためには、事前の情報収集が不可欠です。
離職率が低い職場は、それだけスタッフの満足度が高いと考えられます。
給与や休日といった待遇面はもちろん、職場の雰囲気や教育体制など、求人票だけでは見えない部分を見極めることが重要です。
ここでは、働きやすい職場を見つけるために、転職活動中に意識すべき3つのポイントを具体的に解説します。
働きやすい職場を見つける第一歩は、求人票の情報を詳細に確認することです。
特に給与に関しては、基本給だけでなく賞与の実績や昇給率、各種手当の内訳までチェックしましょう。
地域の給与相場と比較して、年収が極端に低くないかを確認することも重要です。
また、年間休日数もワークライフバランスを保つ上で欠かせない指標です。
120日以上が一つの目安とされていますが、有給休暇の取得率なども含めて、しっかりと休息が取れる環境かどうかを見極める必要があります。
求人票の情報だけでは、職場の実際の雰囲気や人間関係は分かりません。
可能であれば、応募前に職場見学を申し込み、自分の目で確かめることが大切です。
見学の際には、リハビリテーション室の設備が整っているか、清潔に保たれているかといった物理的な環境をチェックしましょう。
また、働いているスタッフの年齢層や表情、スタッフ同士のコミュニケーションの様子などを観察することで、その職場の特徴や人間関係の良し悪しを感じ取ることができます。
個人での情報収集には限界があるため、転職エージェントを積極的に活用することをおすすめします。
転職エージェントは、一般には公開されていない求人を扱っているほか、担当者が医療機関や施設に直接足を運んで得た内部情報を持っています。
職場の雰囲気や人間関係、実際の残業時間、有給休暇の取得率といった、個人では聞きにくいリアルな情報を教えてもらえる可能性があります。
客観的な視点からのアドバイスも受けられるため、ミスマッチの少ない転職につながります。
理学療法士の離職について考えるとき、多くの人が同じような疑問を抱きます。
「辞めたい」と思っているのは自分だけなのか、離職率が高い職場には何か共通点があるのか、といった不安や疑問は尽きません。
ここでは、理学療法士の離職率に関して、特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
客観的な情報を得ることで、自身の状況を冷静に判断し、次のステップを考えるための参考にしてください。
給与が地域の相場より低い、年間休日が110日未満と少ない、研修制度が不十分でスキルアップが見込めない、といった特徴が挙げられます。
また、特定のスタッフに業務負担が偏っていたり、上司からの評価が不透明であったりするなど、労働環境や評価制度に問題がある場合も離職につながりやすいです。
常に求人が出ている職場も、人の入れ替わりが激しい可能性を示唆しています。
新卒から3年以内に離職するケースは珍しくありません。
理想と現実のギャップ、業務の忙しさ、教育体制の不備などが主な原因です。
しかし近年では、理学療法士の数が増加したことで、経験5〜6年目の中堅層がキャリアアップや待遇改善を目指して転職する動きも活発化しています。
若手だけでなく、キャリアの節目で退職を考える理学療法士は多いです。
一時的な感情で辞めた場合や、次のキャリアプランが不明確なまま退職した場合は、「辞めなければよかった」と後悔する可能性があります。
特に、安定した収入や国家資格職としての安定した立場を一時的に離れることに不安を感じる人もいます。
一方で、明確な目標を持って転職やキャリアチェンジをした場合は、待遇や働き方に満足し、後悔しないケースが多いようです。
理学療法士の離職率は全体として他産業より突出して高いわけではありませんが、給与や人間関係、キャリアへの考え方など、さまざまな理由で職場を離れる人がいるのが現状です。
退職を考える際は、自身の不満の要因を明確にし、客観的な情報を集めることが不可欠です。
働きやすい環境を求めて転職する場合でも、キャリアチェンジを目指す場合でも、計画的な行動がその後の満足度を左右します。
もし悩みが生じても、本校で身につけた専門スキルがあれば、理学療法士は多様な道に再チャレンジできる可能性があります。
監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)
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