2026.02.18
理学療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 鍋城 武志(理学療法士)
理学療法士による訪問リハビリとは、利用者が住み慣れた自宅で専門的なリハビリを受けられるサービスです。
この記事では、理学療法士が担う具体的な仕事内容や役割、他職種との違いについて解説します。
また、サービスを利用したい方向けの利用開始までの流れや、訪問リハビリで働くことを検討している理学療法士向けのやりがい、必要なスキルについても詳しく紹介します。
訪問リハビリとは、病気やケガ、加齢などにより心身機能が低下した方に対して、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門職が自宅を訪問し、リハビリテーションを提供するサービスです。
通院が困難な方でも、実際の生活空間で訓練を受けられるのが大きな特徴です。
理学療法士は、利用者の身体機能や生活環境を評価し、主治医やケアマネジャーと連携しながら個別のリハビリ計画を作成します。
目標は、身体機能の維持・向上だけでなく、利用者が自分らしく安全な在宅生活を継続できるように支援することにあります。
訪問リハビリにおいて理学療法士が担う仕事内容は多岐にわたります。
主な内容として、日常生活動作の訓練、運動療法による機能維持・向上、住環境への助言、そして家族への介助指導が挙げられます。
これらの業務は、利用者が自宅で安全かつ自立した生活を送ることを目的としており、病院でのリハビリとは異なり、実際の生活場面に即したアプローチが求められます。
日常生活動作(ADL)とは、食事、入浴、排泄、着替え、移動など、日々の生活で必要不可欠な基本的な動作を指します。
理学療法士は、利用者の身体機能や生活環境を評価し、これらの動作をより安全かつ効率的に行えるよう専門的な訓練を実施します。
例えば、ベッドからの起き上がりやトイレへの移動、浴槽をまたぐ動作などを、実際の生活空間で繰り返し練習します。
身体機能の低下が進行し、寝たきりの状態になることを防ぎ、利用者の自立した生活を支援することが訓練の主な目的です。
関節の動きが悪くなったり筋力が低下したりすると、日常生活での動作が困難になり、転倒のリスクも高まります。
理学療法士は、利用者一人ひとりの身体状態に合わせて、関節可動域訓練や筋力増強運動といった運動療法を計画・実施します。
これには、ベッドサイドで行える簡単な運動から、歩行訓練まで幅広い内容が含まれます。
こうした訓練を継続的に行うことで、身体機能の低下を予防し、今ある能力を最大限に活用できるよう支援します。
結果として、利用者の活動範囲を広げ、生活の質の向上につなげます。
利用者が自宅で安全に生活するためには、身体機能に合わせた住環境の整備が重要です。
理学療法士は、リハビリの専門家として利用者の動作能力を評価し、具体的な住環境の改善点を助言します。
例えば、廊下やトイレへの手すりの設置場所、玄関や浴室の段差を解消する方法、福祉用具の選定や活用法などを提案します。
これらの助言は、転倒などの事故を未然に防ぎ、利用者本人だけでなく、介護を行う家族の身体的な負担を軽減する上でも大きな役割を果たします。
訪問リハビリでは、利用者本人へのアプローチだけでなく、介護を担う家族への支援も重要な役割です。
理学療法士は、家族に対して、利用者の身体に負担をかけず、かつ介助者自身の腰痛などを防ぐ安全な介助方法を具体的に指導します。
例えば、ベッドからの起き上がりや車椅子への移乗のコツなどを、実際の場面で一緒に練習します。
また、日々の介護に関する悩みや不安を聞き、専門的な視点からアドバイスを行うことで、家族の精神的な負担を軽減するサポートも行います。
訪問リハビリは、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3職種が連携して提供されます。
それぞれの専門分野は異なりますが、利用者の在宅生活を支えるという共通の目標を持っています。
利用者の状態やニーズに応じて、単独で関わることもあれば、複数の専門職がチームとして関わることもあります。
各職種の専門性を理解することで、より適切なサービスを選択できます。
理学療法士(PT)は、「起きる」「座る」「立つ」「歩く」といった基本的な動作能力の維持・改善を専門とするリハビリの専門家です。
訪問リハビリでは、利用者が自宅内や屋外を安全に移動できるよう、筋力トレーニングや関節可動域訓練、歩行訓練などを実施します。
また、骨折などの整形外科疾患や脳卒中後の後遺症を持つ方に対し、身体機能の回復を促すためのアプローチも行います。
利用者が生活の基盤となる動作を再獲得し、活動範囲を広げていけるよう支援するのが主な役割です。
作業療法士(OT)は、食事や料理、着替え、入浴、趣味活動など、より応用的で生活に密着した動作のリハビリを専門とします。
理学療法士が獲得を目指す基本動作を応用し、その人らしい生活を送るために必要な「作業」ができるよう支援するのが役割です。
例えば、片麻痺のある方に対して、自助具を使った食事の練習や、着替えやすい衣類の提案などを行います。
また、精神的な側面にもアプローチし、趣味や社会参加を通じて利用者の意欲を引き出し、生活の質の向上を目指します。
言語聴覚士(ST)は、「話す」「聞く」といったコミュニケーション機能や、「食べる(嚥下)」機能に関するリハビリを専門とします。
脳卒中後の失語症や構音障害のある方に対して、円滑な意思疎通ができるように訓練を行ったり、家族とのコミュニケーション方法を助言したりします。
また、加齢や病気により食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなる嚥下障害を持つ方には、安全な食事方法の指導や、飲み込みの力を鍛える訓練を実施します。
リハビリからの卒業を目指し、食の楽しみや会話の喜びを取り戻せるよう支援します。
訪問リハビリの利用を開始するには、いくつかの手続きが必要です。
基本的には、まず主治医やケアマネジャーに相談することから始まります。
その後、医師からの指示書の発行、サービス提供事業者との契約を経て、個別のリハビリ計画が作成され、サービスが開始されるという流れになります。
ここでは、具体的な4つのステップに分けて解説します。
訪問リハビリの利用を希望する場合、最初に行うべきは主治医や担当のケアマネジャーへの相談です。
介護保険の要介護認定を受けている場合は、まずケアマネジャーに連絡し、訪問リハビリを利用したい旨を伝えます。
ケアマネジャーは、利用者の心身の状態や希望を踏まえ、ケアプランに訪問リハビリを組み込むことを検討してくれます。
医療保険での利用を検討している場合や、かかりつけの医師がいる場合は、直接主治医に相談し、リハビリの必要性について判断を仰ぐことが手続きの第一歩となります。
訪問リハビリを開始するためには、医師からの指示が必須となります。多くの事業所では、医師の指示内容を明確化し、根拠を残すために書面(訪問リハビリテーション指示書など)を作成しています。この書面は、利用者がリハビリを必要とする医学的な根拠を示す公的な書類となります。相談を受けた医師が、利用者の診察結果や心身の状態を基に、訪問リハビリが医学的に必要であると判断した場合に発行されます。
指示書には、病名やリハビリを行う上での注意点、目標などが記載されており、サービスを提供する病院やクリニック、訪問看護ステーションのセラピストは、この内容に基づいてリハビリ計画を立案します。
主治医からの指示書が発行された後、ケアマネジャーが紹介する、あるいは自分で選んだ訪問リハビリを提供する事業者と契約を結びます。
契約前には、事業者の担当者が自宅を訪問し、事前面談が行われるのが一般的です。
この面談では、利用者の心身の状態や生活環境、本人や家族がリハビリで達成したい目標などを詳しく聞き取ります。
サービス内容や利用料金、緊急時の対応などについて十分な説明を受け、納得した上で契約に進むことが大切です。
契約と事前面談の内容、そして主治医の指示書に基づき、担当の理学療法士が利用者一人ひとりに合わせた「個別リハビリテーション計画」を作成します。
この計画書には、具体的なリハビリの目標、訓練内容、実施頻度などが明記されます。
計画書の内容は利用者と家族に説明され、同意を得た上でサービスが開始されます。
サービス開始後も、利用者の状態の変化や目標の達成度に応じて、計画は定期的に見直されます。
例えば、約3ヶ月(12週間)ごとに評価を行い、必要に応じて目標や内容を修正しながらリハビリを進めていきます。
訪問リハビリは、病院勤務とは異なる多くのやりがいや魅力がある分野です。
最大のメリットは、利用者の生活空間に直接関わり、リハビリの成果が日常生活の質の向上に直結する点を間近で見られることです。
病院という管理された環境ではなく、実際の家屋構造や生活様式に合わせてリハビリを計画・提供するため、セラピストとしての応用力や創意工夫が求められます。
また、利用者や家族と長期的に深く関わることで、強い信頼関係を築ける点も、大きなやりがいにつながります。
訪問リハビリで活躍する理学療法士には、病院勤務で求められる臨床技術に加え、在宅という特殊な環境に対応するための専門スキルが不可欠です。
特定の認定資格が必須ではありませんが、利用者や多職種との円滑な連携を図るための高度なコミュニケーション能力、限られた環境で最善のリハビリを提供する応用力、そして不測の事態に冷静に対応する状況判断力が特に重要視されます。
訪問リハビリでは、理学療法士は利用者やその家族と密接に関わります。
利用者の意欲を引き出し、リハビリを継続してもらうためには、信頼関係の構築が不可欠です。
また、ケアマネジャーや医師、訪問看護師、ヘルパーなど、さまざまな職種の専門家と連携を取りながらサービスを提供します。
そのため、利用者の状態やリハビリの進捗状況を具体的に報告・連絡・相談する能力が求められます。
多くの求人情報でも、この多職種連携を円滑に進めるためのコミュニケーション能力は重要な要件とされています。
病院とは異なり、訪問先にはリハビリ専用の機器や設備がありません。
そのため、理学療法士は家具やタオル、ペットボトルといった身近なものを活用し、利用者の自宅という環境の中で効果的なリハビリプログラムを立案・実行する応用力が求められます。
玄関の段差や廊下の幅、畳の部屋など、実際の生活環境の制約を考慮し、そこで実践できる具体的な動作訓練を提案する必要があります。
病院での経験を在宅の場にどう活かすか、常に創意工夫が求められるため、転職を考える上で自身の適性を見極める重要なポイントとなります。
訪問リハビリの現場では、基本的に理学療法士が一人で利用者の自宅を訪れます。
そのため、リハビリ中に利用者の体調が急変したり、転倒などのアクシデントが発生したりした場合、その場で冷静かつ的確な状況判断を下し、対処する能力が不可欠です。
まずはバイタルサインを確認し、緊急性を判断した上で、必要に応じて主治医やケアマネジャー、救急への連絡を迅速に行わなければなりません。
このような責任ある立場での経験は、スキルアップにつながり、給料などの待遇面にも反映される可能性があります。
訪問リハビリの利用を検討している方や、この分野で働くことに関心がある理学療法士から寄せられる、よくある質問にお答えします。
費用や適用される保険、働き方に関する疑問は特に多く、ここでは代表的な3つの質問を取り上げます。
利用者の平均的な自己負担額や保険制度の仕組み、理学療法士の一般的な1日の訪問件数や年収の傾向について解説します。
費用は介護保険か医療保険かによって異なりますが、介護保険を利用する場合、自己負担額はサービス料金の1割〜3割です。
1回(20分)あたりの料金は約300円〜1,000円程度が目安となります。
利用頻度や時間によって月々の合計額は変動しますが、介護保険には支給限度額が設定されているため、その範囲内でサービスを組み合わせることになります。
原則として、要介護・要支援認定を受けている65歳以上の方は介護保険が優先的に適用されます。
ただし、厚生労働省が定める特定の疾患(末期がん、難病など)の方や、40歳〜64歳で要介護認定を受けていない特定疾病の方、退院直後で医師が頻回なリハビリが必要と判断した場合などは、医療保険の適用となります。
どちらが適用されるかは主治医が判断します。
事業所の運営方針や本人の働き方(常勤か非常勤か)によって異なりますが、常勤の場合、1日あたり4〜6件程度の訪問が一般的です。
1件あたりのリハビリ時間は40分〜60分が多く、移動時間も考慮してスケジュールが組まれます。
訪問件数に応じてインセンティブ(歩合給)が付く給与体系を採用している事業所も少なくありません。
理学療法士による訪問リハビリは、利用者が住み慣れた自宅で専門的なリハビリを受け、自立した生活を継続するための重要なサービスです。
その仕事内容は、身体機能の訓練から住環境の整備、家族への支援まで多岐にわたります。
利用者にとっては生活の質を維持・向上させる手段であり、理学療法士にとっては病院とは異なる環境で専門性を発揮できるキャリアの選択肢の一つです。
サービス利用には主治医やケアマネジャーへの相談が必要であり、働く上では臨床技術に加えて応用力やコミュニケーション能力が求められます。
監修:日本リハビリテーション専門学校 鍋城 武志(理学療法士)
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