2026.02.23
作業療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 小笹 久志(作業療法士)
作業療法士がスポーツの分野で活躍するためには、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか。
スポーツリハビリといえば理学療法士のイメージが強いかもしれませんが、作業療法士ならではの視点を活かせる場面は数多く存在します。
この記事では、スポーツ分野における作業療法士の役割や理学療法士との違い、具体的な仕事内容や必要な資格について詳しく解説します。
スポーツ分野において、理学療法士だけでなく作業療法士の活躍の場も広がっています。
従来、スポーツ選手の怪我からのリハビリは理学療法士が中心とされてきましたが、近年では選手の心理的サポートや日常生活への復帰支援の重要性が認識され、作業療法士の専門性が注目されています。
特に、精神的なアプローチや、パラスポーツにおける環境調整など、作業療法士ならではのスキルを活かせる場面は増加傾向にあります。
選手のパフォーマンス向上と生活の質の両面から支援できる専門職として、その可能性は今後さらに拡大していくでしょう。
スポーツ分野では、作業療法士と理学療法士はどちらも選手のリハビリに関わりますが、そのアプローチには明確な違いがあります。
理学療法士が怪我をした部位の基本的な身体機能の回復を主目的とするのに対し、作業療法士は身体機能だけでなく、精神面や日常生活動作まで含めた包括的なサポートを行います。
選手が競技に復帰し、その人らしい生活を取り戻すまでを支える視点が、両者の役割を分ける大きなポイントです。
理学療法士は、怪我や障害によって低下した基本的動作能力の回復を専門とするリハビリの専門家です。
スポーツ分野においては、骨折や捻挫、靭帯損傷などを負った選手に対し、関節可動域訓練や筋力トレーニング、物理療法などを用いて、身体機能の改善を図ります。
主な目的は、選手が「走る」「跳ぶ」「投げる」といった競技に必要な基本的な動きを取り戻せるように支援することです。
理学療法士は、運動学や解剖学の知識に基づき、身体機能に直接アプローチすることで、選手が安全かつ早期に競技へ復帰するための土台を築く役割を担います。
作業療法士は、身体的なリハビリに加えて、選手の心理的な側面にもアプローチし、心身両面から競技復帰を支える役割を担います。
怪我をしたスポーツ選手は、身体的な問題だけでなく、復帰への不安や焦り、モチベーションの低下といった精神的な課題を抱えることが少なくありません。
作業療法士は、面談や目標設定を通じて選手の精神状態を安定させ、競技復帰に向けた意欲を高める支援を行います。
身体機能の回復だけでなく、選手が再び自信を持ってプレーできるよう、精神面も含めた包括的なリハビリを提供するのが特徴です。
作業療法士がスポーツ分野で発揮できる最大の強みの一つは、選手のメンタルヘルスを専門的にサポートできる点です。
スポーツ選手は、怪我による長期離脱やパフォーマンスの不調、周囲からのプレッシャーなど、多くのストレスに晒されています。
作業療法士は、精神科領域で培った知識や技術を応用し、カウンセリングやストレスマネジメント、リラクゼーション技法などを通じて選手の心理的な安定を図ります。
選手が抱える不安や葛藤に寄り添い、ポジティブな心理状態で競技に取り組めるよう支援することは、理学療法士にはない独自の貢献と言えます。
作業療法士は、競技への復帰のみならず、選手が怪我を乗り越えて日常生活や社会生活へ円滑に戻れることまでを見据えたリハビリ計画を立てます。
例えば、利き腕を負傷した野球選手に対して、投球動作の訓練と並行して、食事や着替え、筆記といった日常の動作が行いやすくなるような訓練や工夫を指導します。
また、競技生活から引退した後のキャリア形成に関する相談に乗るなど、選手の人生全体を視野に入れたサポートを行うこともあります。
このように、競技場面だけでなく生活全般の質を高める視点を持つ点が、作業療法士の大きな特徴です。
作業療法士がスポーツ分野で活躍する場は、医療機関にとどまりません。
プロスポーツチームのスポーツトレーナーとして選手のコンディション管理を担ったり、パラスポーツの指導員として選手の活動を支援したりと、その職場は多岐にわたります。
ここでは、作業療法士がスポーツ分野で働く際の具体的な職場と、それぞれの仕事内容について詳しく紹介します。
スポーツ整形外科やリハビリテーション科を持つ病院やクリニックは、作業療法士がスポーツ分野で働く際の主要な職場の一つです。
ここでは、スポーツによって怪我をした選手や愛好家に対し、医師の指示のもとで専門的なリハビリテーションを提供します。
手術後の機能回復訓練や、競技特性に合わせた動作の再学習、さらには日常生活への適応支援まで、幅広いアプローチを行います。
単に身体機能を回復させるだけでなく、選手が抱える心理的な不安にも寄り添い、自信を持って競技に復帰できるよう、包括的なサポートを実施します。
プロのスポーツチームや実業団に所属し、スポーツトレーナーとして選手の能力を最大限に引き出す役割を担う道もあります。
主な仕事は、選手のコンディショニング管理、怪我の予防トレーニングの指導、怪我をした際の応急処置やリハビリテーション、そしてメンタルサポートです。
作業療法士は、身体面だけでなく精神面の知識も豊富であるため、選手のパフォーマンスに影響を与える心理的な問題にも対応できる強みがあります。
チームに帯同し、日々の練習から試合まで、選手を最も近い場所で支える重要な存在です。
障がい者スポーツ(パラスポーツ)の分野は、作業療法士の専門性が非常に活かされる領域です。
地域のスポーツセンターや福祉施設などで指導員として働き、選手一人ひとりの障害の特性や身体機能に合わせて、安全に競技を楽しめるよう支援します。
具体的な仕事内容には、技術指導、トレーニングメニューの作成、競技用具の適合や調整、練習環境の整備などが含まれます。
選手が自身の可能性を最大限に発揮し、スポーツを通じて社会参加を実現できるよう、多角的な視点からサポートするやりがいのある仕事です。
作業療法士は、身体機能や動作分析、福祉用具に関する専門知識を活かして、スポーツ用品メーカーで活躍することも可能です。
この職場では、アスリート向けのサポーターやインソール、パラスポーツ用の競技用具(競技用車椅子や義足など)の開発や改良に携わります。
スポーツ選手の身体的な特徴や競技動作を詳細に分析し、より高いパフォーマンスを引き出し、かつ安全性を確保できるような製品を設計します。
選手へのフィッティングや使用感のヒアリングも重要な業務であり、ものづくりを通じてスポーツ界に貢献できます。
作業療法士の専門知識と技術は、特に障がい者スポーツ(パラスポーツ)の分野で大きな力を発揮します。
選手一人ひとりの障害の特性を深く理解し、身体機能だけでなく、使用する道具や周囲の環境にも働きかけることで、選手のパフォーマンス向上と安全確保に貢献します。
義肢や装具、車いすなどの適合支援や、練習環境の調整といった役割は、作業療法士ならではの視点が求められる重要な業務です。
パラスポーツにおいて、競技用具は選手の体の一部であり、そのパフォーマンスを大きく左右します。
作業療法士は、選手一人ひとりの障害の特性、体格、筋力、競技の特性を詳細に評価し、最も力が発揮できる用具の選定や調整(フィッティング)を行います。
例えば、車いすバスケットボールの選手に対しては、座面の角度や高さを調整するシーティング技術を用いて、操作性や安定性を向上させます。
義足を使用する陸上選手には、ソケットの適合をチェックし、痛みなく効率的な動きができるよう支援するなど、専門的な知識でスポーツ選手の活躍を支えます。
作業療法士は、選手が持つ能力を最大限に引き出すため、物理的な練習環境を調整する役割も担います。
パラスポーツでは、選手の障害特性によって、練習施設の設備やレイアウトがパフォーマンスや安全性に大きく影響することがあります。
例えば、視覚障害のある選手のためには、床材の色や照明を工夫してコースの視認性を高めたり、車いすを使用する選手がスムーズに移動できるようスロープを設置したりします。
このように、選手に合わせて環境を最適化するアプローチは、作業療法士の得意分野であり、選手の能力向上に直接貢献します。
作業療法士の国家資格に加え、スポーツ分野に特化した資格を取得することで、専門性を高め、キャリアの可能性を広げることができます。
これらの資格は、スポーツトレーナーとしての知識や技術を客観的に証明するものであり、アスリートやチームからの信頼を得る上でも重要です。
スポーツ現場で求められる専門スキルを身につけ、自身の価値を高めるためにおすすめの資格を紹介します。
障がい者スポーツ指導員は、公益財団法人日本パラスポーツ協会が認定する資格で、パラスポーツ分野でのキャリアを目指す上で非常に有用です。
この資格を取得する過程で、様々な障害の特性や、それに応じた指導法、安全管理の知識などを体系的に学べます。
資格には初級、中級、上級といった段階があり、ステップアップしていくことで、より専門的な指導者として活躍できます。
パラスポーツの現場では、障害に関する深い理解が不可欠であり、この資格は作業療法士の専門性をさらに強化し、選手からの信頼を得るための基盤となります。
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)は、スポーツトレーナー関連の資格の中でも特に認知度と信頼性が高い資格です。
資格取得には、スポーツ科学、医学、リハビリテーションなど幅広い分野の高度な知識が求められ、合格率も低い難関資格として知られています。
主な役割は、スポーツ選手の傷害予防、コンディショニング、救急対応、アスレティックリハビリテーションなど多岐にわたります。
この資格を持つことで、トップレベルのスポーツ現場で活躍するための専門性を証明でき、キャリアの選択肢を大きく広げることが可能です。
認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)は、アメリカに本部を置くNSCA(National Strength and Conditioning Association)が認定する国際的な資格です。
主に、傷害予防とスポーツパフォーマンス向上を目的とした、科学的根拠に基づくトレーニングプログラムを作成・指導する専門能力を証明します。
筋力トレーニングやコンディショニングに関する専門知識は、スポーツ選手の能力を最大限に引き出すために不可欠です。
スポーツトレーナーとして、リハビリだけでなくパフォーマンスアップにも貢献したい場合に強みとなる資格です。
日本スポーツリハビリテーション学会が認定するトレーナー資格は、スポーツリハビリテーションの分野で高度な専門性を持つことを証明するものです。
この資格は、アスリートの傷害発生から評価、リハビリテーション、そして競技復帰に至るまでの一連のプロセスを管理する能力を認定します。
資格取得には、学会が指定する研修会への参加や臨床経験が求められ、常に最新の知識と技術を学ぶ姿勢が必要です。
医療機関やスポーツ現場で、より専門性の高いリハビリテーションを提供したいと考える作業療法士にとって、目標となる資格の一つです。
スポーツ分野における作業療法士の求人は、一般的なリハビリ職の求人と比較して数が限られているため、能動的な情報収集が不可欠です。
病院の求人だけでなく、スポーツチームの公式サイトを直接確認したり、学会や研修会へ参加して人脈を形成したりするなど、多角的なアプローチがキャリアを実現する鍵となります。
ここでは、具体的な職場の探し方について解説します。
スポーツ分野でのキャリアを築く第一歩として、スポーツ整形外科に注力している病院やクリニックの求人を探すのが現実的な方法です。
こうした医療機関では、アスリートやスポーツ愛好家の治療実績が豊富であり、専門的なリハビリテーションスタッフを求めている場合があります。
医療系の求人サイトで「スポーツリハビリ」「スポーツ整形」といったキーワードで検索したり、興味のある病院の採用ページを定期的にチェックしたりすることで、関連する求人情報を見つけやすくなります。
まずは臨床現場で経験を積むことが、将来のキャリアにつながります。
プロのスポーツチームや実業団でトレーナーとして働くことを目指す場合、一般的な求人サイトに情報が掲載されることは稀です。
多くの場合、チームの公式サイトやSNSで不定期にスタッフの募集が行われます。
そのため、関心のあるスポーツや応援しているスポーツチームの公式サイトは、日頃からこまめに確認する習慣をつけることが重要です。
求人数は非常に少なく狭き門ですが、熱意を持って情報を追い続けることで、チャンスを掴める可能性があります。
人脈を通じて情報が得られることもあるため、アンテナを高く張っておく必要があります。
スポーツ分野の求人は、公募されずに人脈を通じて紹介されるケースも少なくありません。
そのため、スポーツ医学やリハビリテーション関連の学会、研修会、セミナーに積極的に参加し、同じ分野で働く専門家とのネットワークを築くことが非常に重要です。
こうした場では、最先端の知識を学べるだけでなく、すでにスポーツ現場で活躍している理学療法士やトレーナー、医師と直接話す機会が得られます。
自身の熱意を伝え、顔と名前を覚えてもらうことで、将来的に求人情報やキャリアに関する有益なアドバイスを得られる可能性が高まります。
作業療法士がスポーツ分野でのキャリアを目指すにあたり、多くの人が疑問や不安を抱えています。
未経験からの挑戦は可能なのか、収入はどの程度期待できるのか、また理学療法士の資格も必要になるのかなど、具体的な質問は後を絶ちません。
ここでは、そうしたスポーツ分野の作業療法士に関するよくある質問について、簡潔に回答していきます。
可能です。
ただし、臨床未経験から直接プロチームのトレーナーになるのは困難です。
まずはスポーツ整形外科のある病院などで臨床経験を積み、スポーツ外傷のリハビリに関する知識と技術を身につけるのが一般的なステップです。
その上で、関連資格を取得したり研修会に参加したりして専門性を高め、徐々にスポーツ分野へキャリアを移行していくのが現実的な道筋となります。
勤務先によって大きく異なります。
病院勤務の場合は、一般的な作業療法士の給与水準とほぼ同等です。
一方、プロスポーツチームのトレーナーなどは実力や契約内容によって高収入を得ることも可能ですが、求人自体が非常に少なく、安定性は所属先次第です。
高い専門性と実績が収入に結びつく、実力主義の世界と言えます。
必須ではありません。
ダブルライセンスは知識の幅を広げますが、それよりも作業療法士としての専門性を深め、スポーツ分野に特化した資格(アスレティックトレーナーなど)を取得する方がキャリア形成には効果的です。
理学療法士との違いを強みとし、精神面のサポートや環境調整など、作業療法士ならではの視点を活かすことが重要になります。
作業療法士がスポーツ分野で活躍する道は着実に広がっており、理学療法士とは異なる専門性を発揮できる多くの可能性があります。
特に、選手のメンタルサポートや、日常生活動作、パラスポーツにおける環境設定といった領域では、作業療法士ならではの視点が強く求められます。
スポーツ整形外科での経験を足がかりに、アスレティックトレーナーなどの関連資格を取得し、学会や研修で人脈を広げることが、この分野でのキャリアを切り拓く鍵となります。
監修:日本リハビリテーション専門学校 小笹 久志(作業療法士)
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