2026.02.20
作業療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 正美(作業療法士)
訪問作業療法士は、利用者の自宅に直接訪問し、その人らしい生活を取り戻すためのリハビリを提供する専門職です。
主に訪問看護ステーションに所属し、看護師や理学療法士と連携しながら、病気や障害によって困難になった日常生活動作の改善を支援します。
本記事では、訪問看護における作業療法士の具体的な役割や仕事内容、病院勤務との違い、給与事情から、サービスの利用を検討している方向けの情報まで幅広く解説します。
訪問作業療法士とは、病気や加齢によって心身に障害を抱える方が、住み慣れた自宅で自立した生活を送れるよう支援するリハビリの専門家です。
その中心的な役割は、食事や入浴といった日常生活の動作から、家事や趣味活動といった生きがいに関わる部分まで、対象者一人ひとりの「やりたいこと」を実現するために、具体的な訓練や環境調整を行うことにあります。
病院とは異なり、実際の生活空間で関わることで、より実践的かつ個別性の高い支援を提供する専門性が求められます。
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)は、ともに対象者の機能回復を支援するリハビリ専門職ですが、その役割には明確な違いがあります。
理学療法士が「座る・立つ・歩く」といった基本的な動作能力の回復を主な目的とするのに対し、作業療法士は食事や着替え、料理、趣味活動など、より応用的で生活に密着した動作の獲得を目指します。
具体的には、理学療法士が筋力や関節の動きを改善して「歩けるようになる」ことを支援し、作業療法士はその能力を使って「スーパーまで安全に買い物に行く」といった具体的な生活行為ができるよう、心身の両面からアプローチします。
訪問看護ステーションにおける作業療法士は、単にリハビリを実践するだけでなく、多岐にわたる役割を担います。
主治医やケアマネジャー、看護師など多職種と連携し、利用者の心身の状態や生活環境を評価して最適なリハビリ計画を立案・実行することが求められます。
また、利用者の残存機能を最大限に活かすための福祉用具の選定や住宅改修の助言、介護する家族への介助方法の指導や精神的なサポートも重要な役割です。
利用者が在宅で安心して生活を継続できるよう、医療と生活の両面からチームの一員として支えることが期待されます。
訪問作業療法士が行うリハビリテーションは、利用者の自宅という実際の生活環境の中で、一人ひとりの目標に合わせて展開されます。
その仕事内容は、基本的な身の回りの動作の練習から、生きがいを見つけるための活動支援、さらには家族への助言まで多岐にわたります。
ここでは、具体的な5つの場面を通して、訪問作業療法士がどのような専門性を発揮し、利用者の「その人らしい暮らし」を支えているのかを詳しく解説していきます。
訪問作業療法士は、利用者の自宅という実際の生活環境において、食事、更衣、排泄、入浴といった基本的な日常生活動作(ADL)の訓練を行います。
例えば、麻痺が残る方に対して、片手でも使いやすい食器(自助具)の選定や食事姿勢の調整を行ったり、実際の浴室の広さや手すりの位置を確認しながら、安全な入浴方法を一緒に練習したりします。
病院のリハビリ室とは異なり、使い慣れた家具や道具がある自宅で訓練することで、利用者がより具体的で実践的な動作を再獲得し、自立した生活を送れるよう支援します。
作業療法士は、料理や洗濯、掃除といった家事(手段的日常生活動作)や、利用者が大切にしてきた趣味活動をリハの一環として取り入れます。
例えば、片麻痺の方と一緒に調理を行うことで、上肢の機能回復や段取りを考える認知機能の訓練につなげます。
また、園芸や手芸、書道といった趣味活動は、指先の細かい動きを促すだけでなく、精神的な安定や生活の質の向上にも大きく貢献します。
本人がやりがいを感じられる活動を通じて、楽しみながら自然に心身機能の回復を促し、社会的な役割の再獲得を支援することも重要な仕事です。
利用者が安全かつ自立して在宅生活を送るために、福祉用具の選定や住宅改修に関する専門的な助言も行います。
利用者の身体機能、生活動線、家屋の構造を総合的に評価し、ポータブルトイレやシャワーチェア、手すりといった最適な福祉用具を提案します。
また、介護保険制度を利用した住宅改修について、段差の解消やスロープの設置など、ケアマネジャーと連携しながら具体的な改修ポイントをアドバイスします。
これにより、転倒などのリスクを軽減し、本人と介護者の双方の負担を軽くすることが可能になります。
訪問作業療法士の支援対象は、利用者本人だけではありません。
在宅介護を担う家族に対して、身体的な負担が少ない介助方法を具体的に指導することも重要な役割です。
例えば、ベッドから車椅子への移乗や着替えの介助など、実際の生活場面で実践しながら指導することで、介護者の腰痛予防や安全な介護技術の習得を支援します。
また、日々の介護に関する悩みや不安に耳を傾け、専門的な視点から相談に応じることで、家族の精神的な負担を軽減し、在宅療養生活をチームとして支えていく体制を整えます。
訪問作業療法士は、認知症や高次脳機能障害を持つ利用者に対しても専門的なアプローチを行います。
例えば、物忘れが目立つ方には、メモやカレンダーを活用してスケジュール管理を支援したり、一つのことに集中できない方には、作業環境をシンプルに整えて注意を向けやすくしたりします。
また、精神的に不安定になりやすい方に対しては、本人が落ち着ける活動やリラックスできる方法を一緒に探し、生活リズムを整えることで安定した在宅生活が送れるよう支援します。
症状の特性を理解し、その人らしさを尊重した関わりが求められます。
訪問分野への転職を考える作業療法士にとって、給与や働き方、やりがいといったリアルな情報は、キャリアを考える上で非常に重要です。
病院勤務とは異なる環境での業務には、特有の魅力と厳しさがあります。
ここでは、訪問作業療法士の給与相場や年収アップのポイント、一日のスケジュール、そして病院勤務と比較した際のやりがいと大変さについて、最新の求人動向も踏まえながら具体的に解説していきます。
訪問作業療法士の給与相場は、常勤で年収400万円〜550万円程度が一般的であり、病院や施設勤務に比べて高い傾向にあります。
これは、訪問件数に応じたインセンティブ制度を導入している事業所が多いためです。
年収をアップさせるためには、経験を積んで訪問件数を安定してこなすことが基本となります。
さらに、管理者や所長などの役職に就くことによる役職手当や、認定作業療法士などの専門資格を取得して資格手当を得ることも有効な手段です。
また、給与体系は事業所によって大きく異なるため、転職時にはインセンティブの割合や手当の種類を詳しく確認することが重要です。
訪問作業療法士の一日は、事業所での朝礼や申し送りから始まります。
その後、社用車や電動自転車で利用者の自宅へ向かい、午前中に2〜3件、昼休憩を挟んで午後に3〜4件の訪問リハビリを行うのが一般的なスケジュールです。
1件あたりのリハビリ時間は40分〜60分で、1日の平均訪問件数は5〜7件程度となります。
訪問の合間にはカルテ記録や報告書の作成を行い、夕方に事業所へ戻って他職種と情報共有をして業務終了となります。
事業所によっては直行直帰が可能な場合もあり、比較的柔軟な働き方ができるのが特徴です。
訪問リハビリの最大のやりがいは、利用者の実際の生活空間に入り込み、その人らしい暮らしの再建に深く関われる点です。
病院の画一的な環境とは異なり、一人ひとりの生活に合わせた個別性の高いリハビリを、自身の裁量で計画・実行できます。
一方で、基本的には一人で訪問するため、急な体調変化など予期せぬ事態への対応をその場で判断しなければならない責任の重さがあります。
また、天候に左右される移動や、他職種との連携を電話や書面で密に行う必要がある点も、病院勤務とは異なる大変さとして挙げられます。
資格を活かして自律的に働きたい人に向いていると言えます。
訪問リハビリの分野が未経験であっても、作業療法士の資格があれば挑戦することは十分に可能です。
多くの訪問看護ステーションでは、未経験者やブランクのある人向けに充実した教育・研修制度を整備しています。
具体的には、入職後数ヶ月間は先輩スタッフとの同行訪問が組まれ、実際の業務を通して利用者との関わり方やリスク管理、書類作成などを学びます。
また、事業所内での定期的な勉強会や、外部研修への参加費用を補助する制度を設けているところも少なくありません。
未経験からでも安心してキャリアをスタートできる環境が整っているため、求人を探す際には教育体制の充実度を確認すると良いでしょう。
訪問作業療法は、病気や障害により通院でのリハビリが困難な方や、退院後の在宅生活に不安を抱える方を支えるサービスです。
ご自宅という慣れ親しんだ環境で、日常生活に直結したリハビリを受けられるのが大きな特徴です。
ここでは、どのような方がサービスの対象となるのか、利用を開始するまでの具体的な手続き、そして医療保険と介護保険のどちらが適用されるのかについて、解説します。
看護師とも連携し、安心して在宅療養が送れるようサポートします。
訪問作業療法は、年齢や疾患を問わず、医師がリハビリの必要性を認めた方が対象となります。
具体的には、脳梗塞や脳出血の後遺症で身体に麻痺が残る方、骨折後の手術で体力が低下し、通院が難しい方、パーキンソン病やALSなどの神経難病と共に生活している方などが挙げられます。
また、認知症の進行により日常生活に支障が出ている方や、精神疾患により社会参加が困難な方も対象です。
退院・退所直後で自宅での生活に不安がある方や、ご家族の介護負担を軽減したい場合にも利用されています。
訪問作業療法の利用を開始するには、まず主治医や担当のケアマネジャー、またはお住まいの地域包括支援センターに相談することから始まります。
相談を受けた主治医がリハビリの必要性を判断し、訪問看護ステーションなどサービス提供事業所宛てに「指示書」を発行します。
事業所の担当者が利用者の自宅を訪問し、身体状況や生活の様子を確認した上で、サービス内容の説明と契約手続きを行います。
利用者一人ひとりに合わせたリハビリ計画が作成され、それに沿ってサービスの利用が開始されます。
訪問作業療法を利用する際には、介護保険か医療保険のいずれかが適用されますが、原則として介護保険が優先されます。
65歳以上で要支援・要介護認定を受けている方、または40歳から64歳で特定の16疾病に該当し要介護認定を受けている方は、介護保険でのサービス利用となります。
一方、末期がんや神経難病など厚生労働省が定める特定の疾患の方や、精神科訪問看護、急性増悪期、退院直後で頻回なリハビリが必要な場合などは、年齢に関わらず医療保険が適用されるケースがあります。
どちらの保険が適用されるかは、病状や年齢によって決まります。
訪問作業療法士のサービスや働き方に関する一般的な質問をまとめました。
1回あたりの時間は40分〜60分が一般的で、料金は介護保険の1割負担の場合、約400円〜900円程度が目安です。
医療保険が適用される場合は、加入している保険の負担割合によって自己負担額が変わります。
血圧計や体温計、リハビリで使うゴムバンドや重りなどの道具は作業療法士が持参します。
利用者が特別に用意するものはありません。
移動手段は、事業所が用意した自動車や電動アシスト付き自転車が一般的です。
精神科の訪問作業療法では、利用者の症状安定と地域生活への定着を目的に、対人関係の改善や家事能力の維持・向上、社会参加の促進を支援します。
調理や買い物、公共交通機関の利用などを一緒に行います。
訪問作業療法士は、利用者が住み慣れた自宅で「その人らしい生活」を継続できるよう、日常生活動作から趣味活動まで、生活全般にわたって支援する専門職です。
理学療法士とは異なり、応用的・実践的な動作の再獲得に重点を置きます。
仕事内容としては、ADL訓練、家事・趣味活動支援、福祉用具の選定、家族指導など多岐にわたります。
病院勤務に比べ給与水準は高く、自律的な働き方が可能ですが、一人で判断する責任も伴います。
サービスの利用は、主治医やケアマネジャーへの相談から始まり、介護保険または医療保険が適用されます。
監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 正美(作業療法士)
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