2026.02.11
作業療法

監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 正美(作業療法士)
作業療法士の専門分野は多岐にわたりますが、日本作業療法士協会では、主に4つの領域に分類しています。
その4つの領域とは「身体障害領域」「精神障害領域」「発達障害領域」「老年期障害領域」です。
それぞれの領域で対象者や仕事内容、主な就職先が異なるため、その違いを理解することがキャリアを考える上で重要になります。
この記事では、作業療法士が活躍する専門領域について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
作業療法士が活躍する主な専門領域は、対象者の特性に応じて4つに大別されます。
1つ目は、病気やケガによる身体機能の障害を対象とする「身体障害領域」です。
2つ目は、心の病を抱える方の社会復帰を支援する「精神障害領域」。
3つ目は、子どもたちの健やかな成長と発達をサポートする「発達障害領域」です。
そして4つ目は、高齢者がその人らしい生活を送れるよう支援する「老年期障害領域」です。
これらの領域はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに関連し合っているケースも少なくありません。
例えば、高齢者が脳卒中を発症した場合、老年期障害領域と身体障害領域の両方の知識や技術が求められます。
各領域の具体的な仕事内容については、次章以降で詳しく解説します。
身体障害領域は、作業療法士が活躍する最も代表的な分野の一つです。
この領域では、病気や事故、ケガなどによって身体に障害を負った方々を対象にリハビリテーションを提供します。
主な目的は、食事や着替え、入浴といった日常生活動作の再獲得や、仕事・趣味活動への復帰を支援することです。
多くの作業療法士が医療機関に勤務し、医師や理学療法士など他職種と連携しながら、対象者の社会復帰をサポートしています。
身体障害領域では、様々な原因で身体機能に障害が生じた方が対象となります。
代表的な例として、脳卒中や脳梗塞、くも膜下出血といった脳血管疾患による麻痺や高次脳機能障害を持つ方が挙げられます。
また、交通事故などによる脊髄損傷、骨折、手や指の切断、関節リウマチやパーキンソン病をはじめとする神経難病、心疾患や呼吸器疾患により体力が低下した方なども対象です。
これらの疾患や外傷によって、日常生活や社会生活に支障をきたしている方々に対して、機能回復と適応能力の向上を目的としたリハビリテーションを提供します。
身体障害領域における作業療法士の主な仕事は、対象者が再びその人らしい生活を送れるように、日常生活動作の能力回復を目指すことです。
具体的な治療法として、食事や更衣、トイレ、入浴などの基本的な動作訓練や、調理や掃除といったより複雑な応用的動作の訓練を行います。
また、身体機能の回復を促すための運動療法や、自助具・福祉用具の選定、住宅改修に関する助言も重要な役割です。
単に失われた機能を取り戻すだけでなく、残された機能を最大限に活用し、環境を調整することで、対象者の生活の質を高めることを目指します。
身体障害領域で働く作業療法士の代表的な就職先は、医療機関です。
具体的には、大学病院や総合病院の急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟、維持期を担う療養型病棟などが挙げられます。
このほか、専門的なリハビリテーションを提供するリハビリテーションセンターや、外来リハビリを行うクリニック、身体障害者福祉センターなども主な勤務先です。
また、在宅生活を支援するために、訪問リハビリテーション事業所や通所リハビリテーション(デイケア)施設で活躍する作業療法士も増えています。
精神障害領域は、精神疾患や心理的な問題を抱える方々が、安定した自分らしい生活を送れるように支援する分野です。
この精神領域では、対象者の症状の回復だけでなく、社会生活への適応や復帰を大きな目標とします。
作業療法士は、手芸やスポーツ、園芸といった具体的な作業活動を用いて、対象者の自信の回復、対人関係能力の改善、生活リズムの構築などをサポートします。
医療機関だけでなく、地域で生活する人々を支える施設での役割も大きくなっています。
精神障害領域の支援対象となるのは、心の病によって日常生活や社会生活に困難を抱えている方々です。
具体的には、統合失調症、うつ病や双極性障害などの気分障害、パニック障害や社交不安障害といった不安障害の方が含まれます。
また、アルコールや薬物などの依存症、摂食障害、ストレス関連障害に悩む方も対象です。
さらに、近年では認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)を抱える高齢者や、発達障害の特性により二次的に精神症状を呈する方への支援も、精神障害領域における重要な役割となっています。
精神障害領域における作業療法の主な仕事は、対象者がその人らしい生活を再構築できるよう、精神的なケアを提供することです。
手工芸、絵画、園芸、料理、スポーツといった多種多様な作業活動を活用し、それらに集中して取り組む過程で精神的な安定や気分の改善を図ります。
また、集団での活動を通じて他者との交流を促し、コミュニケーション能力や対人関係スキルを高めることも重要な目的です。
退院後の生活を見据え、服薬管理や金銭管理、公共交通機関の利用といった具体的な生活技能の訓練や、就労に向けた支援も行います。
精神障害領域で働く作業療法士の主な就職先として、精神科病院が挙げられます。
入院患者を対象としたリハビリテーションから、外来患者が利用するデイケアでのプログラム提供まで、幅広い業務を担います。
また、地域で生活する精神障害者を支援する役割も増えており、就労移行支援事業所や地域活動支援センター、相談支援事業所なども重要な職場です。
このほか、保健所や精神保健福祉センターといった行政機関で、地域全体のメンタルヘルス向上に関わる作業療法士もいます。
発達障害領域は、生まれつきの特性や病気、ケガなどにより、発達に支援が必要な子どもたちを対象とする専門分野です。
作業療法士は「療育」という形で関わり、子どもたちが日常生活や園・学校生活にうまく適応できるようサポートします。
特に、遊びや学習といった子どもにとって身近な活動を通して、運動能力、感覚、認知、コミュニケーションなどの健やかな発達を促す役割を担います。
また、子ども本人だけでなく、その保護者に対して助言や指導を行うことも重要な仕事の一つです。
発達障害領域では、乳幼児期から学童期、思春期にかけての子どもたちが主な対象となります。
具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などの発達障害を持つ子どもたちです。
また、脳性麻痺やダウン症候群といった先天的な疾患、事故による脳の損傷などを抱える子どもも含まれます。
これらの子どもたちは、手先が不器用、落ち着きがない、集団行動が苦手、特定の感覚が過敏または鈍麻であるなど、発達に関する様々な困難を抱えている場合があります。
発達障害領域における作業療法士の主な仕事は、子どもたちが楽しみながら能力を伸ばせるように、遊びや学習を通じて発達を支援することです。
例えば、ブランコやボールプールなどの遊具を使って、身体のバランス感覚や運動能力を養います。
また、粘土遊びやハサミを使う工作などを通して、手先の器用さを高める訓練も行います。
文字を書く、着替える、食事をするといった日常生活の具体的な場面で、子どもが抱える困難の原因を評価し、道具の工夫や環境調整、効果的な練習方法を提案することも重要な役割です。
発達障害領域で働く作業療法士の主な就職先は、子どもを対象とした医療・福祉・教育機関です。
代表的な職場として、未就学児を対象とする児童発達支援センターや、小学生から高校生までが利用する放課後等デイサービスが挙げられます。
また、小児科のある病院やリハビリテーションセンター、市町村の保健センターでの乳幼児健診や発達相談なども活躍の場です。
さらに、特別支援学校や小学校・中学校の特別支援学級に配置され、教員と連携しながら専門的な立場から子どもたちを支援する役割も増えています。
老年期障害領域は、加齢や病気によって心身機能が低下した高齢者を対象とし、その人らしい生きがいのある生活を継続できるよう支援する分野です。
高齢化が急速に進む現代社会において、非常に需要が高まっています。
この領域では、身体機能の維持・向上だけでなく、認知機能の低下予防や、趣味活動・社会参加の促進など、生活の質全体を高める視点が求められます。
医療と福祉の連携が不可欠であり、介護保険制度下でのサービス提供が中心となる点が特徴です。
老年期障害領域の対象となるのは、主に介護保険サービスを利用している高齢者です。
具体的には、認知症の方や、脳卒中の後遺症、大腿骨骨折などの整形外科疾患、加齢に伴う虚弱(フレイル)や廃用症候群により、日常生活に何らかの支援を必要とする方々が挙げられます。
また、パーキンソン病などの神経難病を抱える高齢者や、心疾患、呼吸器疾患を持つ方も対象となります。
これらの状態にある高齢者が、住み慣れた地域で安全に、そして生きがいを持って生活を続けられるよう支援していきます。
老年期障害領域における作業療法士の仕事は、対象者の心身機能の維持・向上を図るとともに、生活しやすい環境を整えることです。
体操やレクリエーション、手芸などの作業活動を通じて、身体機能や認知機能の低下を予防します。
また、調理や買い物、趣味活動といった、対象者にとって意味のある活動を再び行えるように支援し、生活の張りや生きがいを引き出すことも重要な役割です。
さらに、手すりの設置や福祉用具の選定といった住宅改修の提案、家族への介護方法の助言など、対象者を取り巻く環境全体に働きかけます。
老年期障害領域で働く作業療法士の主な就職先は、介護保険に関連する施設や事業所です。
具体的には、在宅復帰を目指すリハビリテーションを重点的に行う介護老人保健施設や、長期的な生活の場である特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどが挙げられます。
また、在宅で生活する高齢者を支援する通所リハビリテーションや通所介護、利用者の自宅を訪問してリハビリを提供する訪問看護ステーションや訪問リハビリテーション事業所も代表的な職場です。
作業療法士が活躍する4つの専門領域は、それぞれ対象者や仕事内容、職場環境が大きく異なります。
そのため、これから作業療法士を目指す学生や、キャリアチェンジを考えている療法士にとって、どの領域が自分に合っているかを見極めることは非常に重要です。
ここでは、自分に合った専門領域を見つけるための視点として、3つのポイントを紹介します。
これらのポイントを参考に自己分析を行い、納得のいくキャリア選択につなげてください。
自分に合った領域を見つける第一歩は、どのような人々の力になりたいか、どのような状態の人の支援に関心があるかを考えることです。
例えば、子どもの成長を見守ることにやりがいを感じるなら発達障害領域、身体の機能回復を通して人の生活を再建するプロセスに興味があれば身体障害領域が向いているかもしれません。
また、高齢者と穏やかに関わるのが好きなら老年期障害領域、人の心に寄り添い社会復帰を支えたいなら精神障害領域というように、自身の価値観や関心の方向性を明らかにすることが、領域選択の重要な軸となります。
専門領域によって、主な職場や働き方は大きく異なります。
急性期の病院で医療チームの一員として緊密に連携しながら働きたいのか、地域の福祉施設で利用者一人ひとりとじっくり向き合いたいのか、自身の理想とする働き方を具体的にイメージしてみましょう。
例えば、医療の最前線で働きたいなら身体障害領域、地域に根差した支援がしたいなら老年期障害領域や精神障害領域が選択肢になります。
また、日勤中心で働きたい、訪問という形式で働きたいなど、ライフスタイルに合わせた働き方を考えることも、領域を絞り込む上で有効な視点です。
長期的な視点で自身のキャリアを考えることも、領域選択において重要です。
例えば、超高齢社会において老年期障害領域の需要は今後も高まり続けると予想されます。
また、発達障害や精神障害への社会的な理解が深まるにつれて、これらの領域における専門家のニーズも増加傾向にあります。
自分が特定の分野のスペシャリストを目指したいのか、あるいは複数の領域を経験してジェネラリストとして活躍したいのかによっても選択は変わります。
各領域の社会的なニーズや将来性を考慮しながら、自身の目指す作業療法士像と照らし合わせてみることが大切です。
作業療法士の活躍の場は、これまで紹介した4つの主要な専門領域に限りません。
社会の多様化するニーズに応える形で、新たな分野へとその専門性が求められるようになっています。
病気や障害を抱えた人への直接的なリハビリテーションだけでなく、地域住民の健康増進や介護予防、特別な支援が必要な子どもたちの教育、社会復帰を目指す人々の更生支援など、その役割は拡大し続けています。
ここでは、近年注目されている新しい活躍の場をいくつか紹介します。
地域保健領域では、作業療法士は市町村の保健センターや地域包括支援センターなどに所属し、地域に住む人々の健康づくりをサポートします。
主な役割は、高齢者向けの介護予防教室や、住民を対象とした健康増進プログラムの企画・運営です。
病気や障害を「治す」だけでなく、「予防する」という視点から、運動機能や認知機能の維持・向上、生活習慣の改善などを促します。
地域全体の健康寿命を延ばし、住民が生き生きとした生活を長く続けられるよう支援する、社会貢献度の高い分野です。
教育領域において、作業療法士は特別支援学校や小中学校の特別支援学級などで活躍します。
主な役割は、障害のある子どもたちが学校生活にスムーズに適応し、学習活動に参加しやすくなるように専門的な支援を行うことです。
例えば、文字を書きやすいように鉛筆の持ち方を指導したり、集中して授業を受けられるように椅子の高さを調整したりします。
教員と連携し、子どもの発達段階や特性に応じた環境設定や教材の工夫を提案することで、学習面と生活面の両方から子どもたちの成長を支えます。
司法領域は、作業療法士の比較的新しい活躍の場であり、刑務所や少年院、保護観察所などが職場となります。
ここでは、罪を犯した人々が社会復帰を果たし、再び罪を繰り返すことのないよう更生を支援します。
作業療法士は、受刑者や非行少年に対して、規則正しい生活を送るためのスキル訓練や、感情をコントロールする方法、対人関係を円滑にするためのプログラムなどを提供します。
社会復帰後の就労を見据えた職業訓練に関わることもあり、社会の安全と個人の立ち直りに貢献する重要な役割を担います。
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作業療法士の専門領域について調べていると、就職や給与、キャリアチェンジに関する様々な疑問が浮かんでくることがあります。
特に、これから作業療法士を目指す学生や、経験の浅い療法士にとっては、領域の選択が将来のキャリアを大きく左右するため、不安を感じる点も多いかもしれません。
ここでは、専門領域に関するよくある質問の中から、特に代表的な3つの疑問について、簡潔に回答します。
はい、未経験からでも希望の領域に就職することは可能です。
新卒採用の場合、特定の領域での経験が問われることはほとんどなく、学生時代の実習経験や学習意欲が重視されます。
転職の場合でも、研修制度が充実している職場は多く、熱意と作業療法士としての基礎があれば、未経験の領域へチャレンジできます。
専門領域による給料や年収の大きな差は少ない傾向にあります。
給与水準は、領域そのものよりも、勤務先の施設形態(公立病院、民間施設など)や規模、勤続年数、役職によって決まることが一般的です。
ただし、訪問リハビリテーションなど、特定のサービス形態では別途手当が支給され、給与が高くなる場合があります。
はい、可能です。
作業療法士としての基本的な知識や技術、対象者との関わり方といったスキルは、どの領域でも共通して活かすことができます。
自身の興味の変化やキャリアアップを目指して、異なる専門領域へ転職する作業療法士は少なくありません。
その際は、これまでの経験を新しい分野でどう活かせるかを明確に伝えることが重要です。
作業療法士の専門領域は、主に「身体障害」「精神障害」「発達障害」「老年期障害」の4つに分類されます。
それぞれの領域で対象者、仕事内容、働く場所が異なり、求められる専門性も多様です。
さらに、近年では地域保健や教育、司法といった新しい分野にも活躍の場が広がっています。
各領域の特徴を深く理解し、自身の興味や関心、理想の働き方と照らし合わせることが、納得のいくキャリアを築くための第一歩となります。
まずは関心のある領域について、さらに詳しい情報を集めたり、実際に施設を見学したりすることをおすすめします。
監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 正美(作業療法士)
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