2026.02.08
作業療法

監修:日本リハビリテーション専門学校 小笹 久志(作業療法士)
訪問リハビリテーションにおける作業療法士は、利用者が住み慣れた自宅でその人らしい生活を送れるよう支援する重要な役割を担います。
病院でのリハビリとは異なる環境で、より生活に密着した支援を行うのが特徴です。
この記事では、訪問リハビリにおける作業療法士の具体的な仕事内容や、混同されやすい理学療法士との役割の違い、働き方、給与事情まで詳しく解説します。
訪問リハビリにおける作業療法士(OT)の役割とは、利用者の自宅という実際の生活の場で、その人らしい生活の再構築を支援することです。
身体機能の回復だけでなく、食事や入浴といった日常生活から、趣味活動や社会参加に至るまで、生活全般に関わる「作業」に焦点を当てます。
利用者の価値観や生活背景を深く理解し、心と身体の両面からアプローチすることで、生活の質(QOL)の維持・向上を目指すのが、訪問リハビリで求められる作業療法士の最も重要な役割といえます。
訪問リハビリにおける作業療法士の仕事は、利用者の生活全般にわたるため非常に多岐にわたります。
病院とは異なり、実際の生活空間でリハビリを行うため、より実践的で個別性の高いアプローチが求められるのが特徴です。
具体的には、日常生活動作の訓練から家事動作の支援、さらには精神面へのアプローチや家族への指導まで、その人らしい生活を支えるためのあらゆる支援を行います。
利用者が自宅で安全かつ自立した生活を送るために、食事、更衣、整容、トイレ、入浴といった基本的な日常生活動作(ADL)の訓練を行います。
例えば、麻痺が残る利用者に対して、片手でも着替えやすい方法を指導したり、食事の際に使いやすい自助具を選定したりします。
特に、生活の中で頻繁に使う手のリハビリを受けることで、細かな動作が可能になるよう支援します。
単に動作を練習するだけでなく、利用者の住環境に合わせて動作の工夫を提案し、実践できるようサポートします。
日常生活動作(ADL)が安定してきたら、調理や洗濯、掃除、買い物といった、より複雑で応用的な家事動作(IADL)の訓練を行います。
例えば、キッチンでの安全な調理手順の確認や、効率的な掃除方法の練習、近所のスーパーまでの買い物同行などが具体的なリハビリ内容に含まれます。
利用者の希望や役割に合わせて、「家族のために料理を作りたい」「一人で買い物に行けるようになりたい」といった具体的な目標を設定し、その達成に向けて支援することが生活の質の向上に直結します。
利用者の身体機能や家屋の状況を評価し、手すりの設置や段差の解消といった住宅改修に関する専門的な助言を行います。
また、シャワーチェアやポータブルトイレ、自助具など、利用者の状態に合った福祉用具の選定を支援するのも重要な役割です。
医療的な視点を持ちながら、ケアマネージャーや福祉用具専門相談員、工事業者などと連携し、利用者が自宅で安全に過ごせる環境を整えるための具体的な提案を行い、その人らしい生活の継続をサポートします。
身体的なアプローチだけでなく、利用者の精神面や認知機能に対するリハビリテーションも作業療法士の重要な役割です。
病気や障害によって失われがちな意欲や自信を取り戻せるよう、趣味活動の再開や地域活動への参加を促します。
また、認知症の利用者に対しては、カレンダーやメモを活用して記憶を補う方法を指導したり、混乱を避けるための環境調整を行ったりします。
精神的な安定を図り、生きがいを見つける支援を通じて、生活全体の質を高めることを目指します。
訪問リハビリでは、利用者本人だけでなく、介護を担う家族への支援も欠かせません。
安全で負担の少ない介助方法を具体的に指導したり、介護に関する悩みや不安を聞き、精神的なサポートを行ったりします。
例えば、ベッドから車椅子への移乗方法や、着替えの際の注意点などを一緒に練習します。
必要に応じて医師やケアマネージャーと情報を共有し、家族を含めたチーム全体で利用者を支える体制を構築することで、介護負担の軽減と在宅生活の継続を図ります。
訪問リハビリの現場では、作業療法士(OT)と理学療法士(PT)が連携してサービスを提供することが多くありますが、それぞれの専門性や役割には明確な違いがあります。
どちらも利用者の在宅生活を支えるという共通の目標を持ちながら、アプローチする視点が異なります。
この違いを理解することは、自身の専門性を活かしたキャリアを考える上で非常に重要です。
作業療法士(OT)は、食事や料理、趣味活動といった具体的な「作業」を通じて、利用者の「その人らしい生活」の再構築を目指す専門職です。
身体機能の回復だけでなく、利用者の価値観や社会的役割、生きがいなど、心理社会的な側面にも深く関わります。
生活全般をリハビリの対象として捉え、応用的な動作や社会参加までを視野に入れた支援を行うのが大きな特徴です。
利用者が主体的に生活を営むための能力を最大限に引き出す役割を担います。
理学療法士(PT)は、「起き上がる」「座る」「立つ」「歩く」といった、日常生活を送る上での基盤となる基本動作能力の回復や維持を主な目的とします。
身体の構造や運動機能に焦点を当て、筋力トレーニングや関節可動域訓練、歩行訓練といったアプローチが中心です。
身体機能の専門家として、利用者が安全に動ける身体の土台作りを担います。
作業療法士が生活の「応用」に関わるのに対し、理学療法士は生活の「基本」を支える役割といえます。
作業療法士の働く場として代表的な病院と訪問リハビリでは、その目的や環境、関わる人々が大きく異なります。
病院でのリハビリが治療や退院を主眼に置くのに対し、訪問リハビリは利用者の実際の生活を継続・向上させることを目指します。
この違いは、リハビリの目標設定や内容に直結し、セラピストに求められるスキルも変わってきます。
通所リハビリともまた異なる、訪問ならではの特徴が存在します。
病院でのリハビリテーションは「自宅へ退院する」ことが大きな目標となることが多い一方、訪問リハビリでは「自宅でどのように生活していくか」という、より具体的で生活に根差した目標を設定します。
例えば、「近所のスーパーへ一人で買い物に行く」「趣味の料理を再開する」といった、利用者本人や家族の希望に基づいた目標を立てます。
生活の質そのものに焦点を当て、実生活の中で意味のある活動を達成できるよう支援することが重要になります。
病院のリハビリ室という整備された環境とは異なり、訪問リハビリは利用者が実際に生活している自宅で行われます。
そのため、玄関の段差や廊下の幅、慣れた家具の配置など、実生活の環境そのものがリハビリの場となります。
これにより、訓練のための訓練で終わらず、日常生活の課題に直接アプローチできる極めて実践的なリハビリが可能です。
訪問看護ステーションなどに所属するセラピストは、この環境を最大限に活用する工夫が求められます。
病院では医師や看護師など院内スタッフとの連携が中心ですが、訪問リハビリでは利用者を取り巻くさらに多くの人々との連携が不可欠です。
同居する家族はもちろんのこと、ケアマネージャー、訪問介護員、福祉用具専門相談員、デイサービスの職員など、地域の様々な専門職と密に情報を交換し、チームとして利用者を支える体制を築く必要があります。
多角的な視点から利用者の状況を把握し、一貫したサービスを提供するための要となります。
訪問リハビリ分野への転職を検討する上で、働き方や給与事情は重要な判断材料となります。
病院勤務とは異なる給与体系や勤務形態が採用されていることが多く、自身のライフプランやキャリアビジョンに合っているかを見極める必要があります。
求人情報を見る際には、給与額だけでなく、インセンティブ制度の有無や勤務先の事業形態(訪問看護ステーションか病院かなど)の特徴を理解しておくことが大切です。
訪問リハビリで働く作業療法士の年収は、一般的に病院などの医療機関に勤務する場合と比較して高い傾向にあります。
平均年収の相場は400万円から550万円程度とされていますが、経験年数やスキル、勤務する地域や事業所の規模によって大きく変動します。
特に、インセンティブ制度を導入している事業所では、訪問件数に応じて給与が上乗せされるため、経験を積むことでさらなる収入アップを目指すことも可能です。
訪問リハビリ業界では、多くの事業所がインセンティブ制度(歩合制)を導入しています。
これは、月の訪問件数があらかじめ定められた基準を超えた場合に、1件あたり数千円の手当が基本給に上乗せされる仕組みです。
効率的に訪問スケジュールを組むことで高収入を得られる可能性がある一方で、常に一定の件数をこなすプレッシャーを感じることもあります。
給与体系が自身の働き方の希望と合致しているか、求人情報をよく確認することが重要です。
訪問リハビリの主な勤務先には、訪問看護ステーションと病院の訪問リハビリテーション部門があります。
訪問看護ステーションは、看護師が中心の事業所が多く、医療的な連携が取りやすい反面、リハビリ職が少数で裁量が大きい傾向があります。
一方、病院はリハビリ部門が確立されており、同職種の先輩や同僚が多く相談しやすい環境ですが、組織のルールが比較的厳しい場合もあります。
それぞれの特徴を理解し、自分の経験や求める働き方に合った職場を選ぶことが大切です。
訪問リハビリは、病院での勤務とは異なる多くのやりがいを感じられる分野です。
利用者の生活に深く入り込み、その人らしい暮らしを直接的に支えることができるのは、訪問リハビリならではの魅力と言えます。
責任の大きい仕事ですが、その分、専門職としての喜びや手応えを実感する場面も数多くあります。
ここでは、多くの作業療法士が感じる代表的なやりがいを紹介します。
訪問リハビリの最大のやりがいは、自分の関わりによって利用者の実際の生活が目に見えて改善していく過程を、その人の自宅という最も身近な場所で見届けられることです。
例えば、昨日までできなかった入浴動作が一人でできるようになったり、諦めていた趣味の編み物を再開できたりと、リハビリの成果が生活の質の向上に直結する様子を共有できます。
その瞬間の利用者や家族の笑顔は、何物にも代えがたい喜びとなります。
訪問リハビリでは、1回の訪問時間が40分から60分と設定されており、利用者一人ひとりとマンツーマンでじっくり関わることができます。
集団リハビリが中心となる施設や、時間に追われがちな病院とは異なり、利用者や家族との対話を大切にしながら、個別性の高いリハビリを受ける環境を提供できます。
時間をかけて信頼関係を築き、その人の人生観や価値観を深く理解した上で、オーダーメイドの支援ができる点は大きな魅力です。
利用者の生活環境やニーズを直接把握できる訪問リハビリでは、作業療法士としての専門性を最大限に活かし、主体的にリハビリ計画を立案しやすい環境があります。
家屋の状況や家族の協力体制、本人の希望などを総合的にアセスメントし、自身の知識やアイデアを反映させたプログラムを組み立てることが可能です。
自身の資格と経験を基に、裁量権を持って仕事を進められるため、専門職としての成長とやりがいを強く実感できます。
多くのやりがいがある一方で、訪問リハビリには特有の大変さも存在します。
病院などの組織の中で働くのとは異なり、一人で対応しなければならない場面が多く、身体的な負担も伴います。
転職を成功させるためには、こうした大変な側面も事前にしっかりと理解し、自分自身が対応できるかを冷静に判断することが重要です。
ここでは、訪問リハビリで働く上で直面しやすい困難について解説します。
訪問先では、基本的にセラピスト一人で利用者の対応にあたります。
そのため、利用者の体調が急に変化したり、予期せぬトラブルが発生したりした際には、その場で冷静かつ的確な判断を下さなくてはなりません。
近くにすぐに相談できる医師や同僚がいない状況で、一人ですべてを判断し、対応することへの責任の重さは、大きなプレッシャーとなることがあります。
常に報告・連絡・相談を怠らない姿勢が求められます。
訪問リハビリは、利用者の自宅から次の利用者の自宅へと移動を繰り返すのが日常です。
移動には自動車や自転車などを用いますが、交通渋滞や駐車場所探しに時間がかかることも少なくありません。
また、夏の猛暑や冬の積雪、台風といった悪天候の日でも訪問は続くため、天候に左右される身体的な負担は大きいです。
スケジュール管理だけでなく、日々の体調管理も重要な業務の一部となります。
作業療法士の資格を持っていても、訪問リハビリ未経験からこの分野に挑戦する場合、最初は戸惑うことが多いでしょう。
特に、一人で判断する場面が多いという特性から、十分な知識や経験がないまま独り立ちすることには大きなリスクと不安が伴います。
そのため、入職後の研修制度や、先輩セラピストとの同行訪問の期間が十分に設けられている事業所を選ぶことが極めて重要です。
教育体制の充実は、安心してキャリアをスタートさせるための必須条件です。
訪問リハビリは、その業務の特性から、誰にでも務まる仕事というわけではありません。
病院でのリハビリとは求められるスキルや資質が異なるため、自身の性格や能力が訪問の現場に適しているかを見極めることが大切です。
ここでは、訪問リハビリの作業療法士として活躍できる人の特徴を具体的に挙げていきます。
自身の強みと照らし合わせながら、キャリア選択の参考にしてください。
訪問リハビリでは、利用者の身体機能だけでなく、住んでいる家屋の構造、家族関係、経済状況、趣味や生きがい、地域の社会資源など、その人の生活を取り巻くあらゆる要素を包括的に捉える必要があります。
目の前の課題だけにとらわれず、生活全体を広い視野で見て、何がその人らしい生活を阻害しているのか、何があればもっと良くなるのかを考えられる人は、この分野で大きく貢献できます。
利用者の在宅生活は、多くの専門職や家族によって支えられています。
そのため、作業療法士にはハブ的な役割が求められることも少なくありません。
利用者や家族との信頼関係を築くのはもちろん、ケアマネージャーや医師、訪問看護師、ヘルパーなど、様々な立場の人々と円滑に情報共有し、意見調整を行う高いコミュニケーション能力が不可欠です。
チームの一員として協調性を持って動ける人が向いています。
訪問リハビリでは、1日の訪問スケジュール管理や記録業務、自身の体調管理まで、すべてを自分自身でコントロールする必要があります。
また、訪問先では交通事情による遅延や利用者の急なキャンセル、体調不良など、予定通りに進まないことが日常茶飯事です。
このような状況でも慌てず、冷静に優先順位を判断し、臨機応変に対応できる力が求められます。
理学療法士など他のスタッフとも連携し、柔軟に動ける人が活躍できます。
訪問リハビリという働き方に興味を持った作業療法士や学生の方々から、多くの質問が寄せられます。
病院勤務とは異なる点が多いため、具体的な働き方のイメージがつきにくかったり、未経験での転職に不安を感じたりするのは当然のことです。
ここでは、そうした疑問の中でも特に代表的な質問をいくつか取り上げ、簡潔に回答します。
これからのキャリアを考える上での参考情報としてください。
はい、可能です。
多くの事業所が未経験者を受け入れており、研修制度や同行訪問などを通じてサポートする体制を整えています。
ただし、一人で判断する場面が多いため、臨床経験が3年以上あるとよりスムーズに業務に適応できる傾向があります。
応募時には、教育体制が充実しているかを必ず確認することが重要です。
一般的なスケジュールは、午前中に訪問看護ステーションなどの事業所へ出勤し、準備を整えてから2〜3件の家庭を訪問します。
午後に昼休憩を取り、さらに2〜3件訪問した後、事業所に戻ってカルテ記録や報告書作成などの事務作業、他職種との情報共有を行います。
1日の訪問件数は4〜6件が目安です。
必須ではありませんが、求人の多くで普通自動車免許が応募条件とされています。
特に郊外や地方では自動車での移動が基本となるため、免許は必須です。
一方、都市部の事業所では、公共交通機関や電動自転車を利用して訪問するケースもあるため、免許がなくても応募可能な求人が見つかることがあります。
訪問リハビリテーションにおける作業療法士は、利用者が住み慣れた環境で、安全かつその人らしい生活を継続できるよう支援する、非常に専門性の高い役割を担っています。
病院でのリハビリとは異なり、利用者の実際の生活空間で、より実践的なアプローチが求められるのが大きな特徴です。
医療機関での経験とはまた違うやりがいやスキルが身につく分野であり、多職種との連携を通じて地域医療に深く貢献できます。
監修:日本リハビリテーション専門学校 小笹 久志(作業療法士)
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