2026.02.03
理学療法

監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)
「理学療法士はやめとけ」という言葉を見聞きし、将来の選択に不安を感じている人もいるかもしれません。
確かに、理学療法士の仕事には厳しい側面もありますが、その情報を鵜呑みにして夢を諦めてしまうと後悔につながる可能性があります。
大切なのは、ネガティブな評判の真偽を確かめ、仕事の実態や将来性を正しく理解した上で、自分自身の適性を見極めることです。
この記事では、客観的なデータや情報を基に、理学療法士という仕事のリアルな姿を解説します。
理学療法士が「やめた方がいい」と言われる背景には、給与体系や将来性、労働環境に関する根深い課題が存在します。
華やかなイメージとは裏腹に、心身ともに厳しい現実に直面し、理想とのギャップに悩む人が少なくありません。
ここでは、ネガティブな評判が立つ主な4つの理由を深掘りし、理学療法士が抱える具体的な問題点を明らかにしていきます。
これらの課題を事前に知ることが、ミスマッチを防ぐ第一歩となります。
理学療法士の給与は、初任給こそ他の医療職や一般大卒と大差ないものの、その後の昇給幅が小さい傾向にあります。
診療報酬制度に基づいてリハビリテーションの単価が国によって定められているため、個人の頑張りが直接給与に反映されにくい構造的な問題を抱えています。
勤続年数を重ねても年収が頭打ちになりやすく、特に病院や介護施設などの保険診療を主とする職場では、管理職に就かない限り大幅な収入アップは期待しにくいのが実情です。
この昇給しづらい給与体系が、将来への経済的な不安につながっています。
近年、理学療法士の養成校が急増した結果、資格取得者の数も大幅に増加しました。
日本理学療法士協会のデータによれば、会員数は年々右肩上がりに増え続けています。
この状況から、将来的には理学療法士が飽和状態に陥り、就職先の確保が難しくなったり、労働条件が悪化したりするのではないかと懸念されています。
実際に、以前に比べて就職の選択肢が減り、希望する分野や待遇の良い求人への競争は激化しつつあります。
供給過多の問題は、これから理学療法士を目指す人にとって無視できないリスクの一つです。
理学療法士の仕事は、患者の身体を直接支えたり、動かしたりする介助動作が多く、身体的な負担が非常に大きいのが特徴です。
特に、体格の大きな患者を相手にする際は強い力が必要となり、腰痛をはじめとする職業病のリスクが常に伴います。
不自然な姿勢での介助が原因で、自身がけがをしてしまうケースも少なくありません。
また、日々の業務に加えて、終業後の勉強会や学会参加、自己研鑽のための学習も求められるため、プライベートな時間を確保しにくいという精神的な負担も重くのしかかります。
理学療法士は、患者やその家族はもちろん、医師、看護師、介護士など、非常に多くの人々と連携して業務を進める必要があります。
それぞれの立場や意見が異なる中で、時には板挟みになり、調整役として精神的なストレスを抱えることも少なくありません。
患者の要求と医師の指示が食い違う、他職種との連携がうまくいかないなど、人間関係が最悪の状況に陥る可能性も考えられます。
コミュニケーションを取ることが元々苦手な人にとっては、こうした複雑な人間関係が大きな負担となり、仕事の継続を困難にさせる要因になり得ます。
理学療法士の仕事は、厳しい側面ばかりではありません。
多くの理学療法士が困難を乗り越えて仕事を続けているのは、それを上回る大きなやりがいや魅力があるからです。
患者の人生に深く関わり、その回復を直接サポートできる喜びは、他の職業では味わえない特別なものです。
ここでは、理学療法士として働く中で感じられる3つの良い点に焦点を当て、この仕事が持つ本質的な価値とやりがいについて解説します。
理学療法士として働く最大のやりがいは、けがや病気で身体機能が低下した患者が、リハビリテーションを通じて少しずつ回復していく過程を最も近い場所で支えられる点にあります。
昨日までできなかった動作が今日できるようになったり、杖なしで歩けるようになったりする瞬間に立ち会えることは、何物にも代えがたい喜びです。
患者の「できた」という笑顔や、目標を達成した時の達成感を共有できるのは、この仕事ならではの醍醐味と言えるでしょう。
患者の人生の大きな転機に関わり、その機能回復に貢献できるという実感は、日々の業務の大きなモチベーションとなります。
理学療法士は、患者一人ひとりと深く長く関わる仕事です。
リハビリテーションというプロセスを通じて信頼関係を築き、心身ともに患者を支える中で、本人やその家族から「ありがとう」「先生のおかげです」といった感謝の言葉を直接かけてもらえる機会が数多くあります。
自分の提供した技術や知識が、相手の生活の質を向上させ、喜びに繋がったことを実感できる瞬間です。
このような心からの感謝の言葉は、仕事の疲れを癒し、次への活力を与えてくれる大きな原動力となり、仕事への誇りを強く感じさせてくれます。
医療現場において、理学療法士は「身体動作の専門家」という独自のポジションを確立しています。
医師が診断や治療方針を決定し、看護師が日常的なケアを行う中で、理学療法士は基本的な動作能力の回復という専門分野を担います。
多職種で構成される医療チームの中で、専門的な知識と技術を基に意見を求められ、患者の治療計画に貢献できることは、大きな誇りにつながります。
チームの一員として専門性を発揮し、患者の退院後の生活を見据えたリハビリテーションを提供することで、なくてはならない存在として頼りにされることに強いやりがいを感じられます。
理学療法士は飽和しているという声から将来性を不安視する人もいますが、社会の変化に目を向けると、その需要はむしろ拡大していくと予測されます。
特に、超高齢化社会を迎えた日本では、理学療法士が活躍できるフィールドは多様化しています。
キャリアの積み方次第では、45歳以降も専門性を活かして働き続けることが可能です。
ここでは、今後の需要やキャリアパスの広がりについて解説し、理学療法士の将来性を具体的に見ていきます。
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行しており、今後も高齢者人口は増加し続けると予測されています。
これに伴い、加齢による身体機能の低下や、脳卒中、骨折などの疾患を抱える高齢者が増えるため、リハビリテーションの需要はますます高まっていきます。
治療を目的とした医療機関でのリハビリだけでなく、介護予防や健康寿命の延伸を目的とした地域包括ケアシステムにおいても、理学療法士の専門知識は不可欠です。
社会的なニーズの増大は、理学療法士という職業の安定性と将来性を支える大きな要因となっています。
かつて理学療法士の主な勤務先は病院でしたが、現在ではその活躍の場は大きく広がっています。
高齢者向けの介護老人保健施設やデイサービス、利用者の自宅に訪問してリハビリを行う訪問看護ステーションなど、介護分野での需要が急増しています。
さらに、プロスポーツチームやアスリートを支えるスポーツトレーナー、企業の従業員の健康をサポートする産業理学療法、行政と連携して地域住民の介護予防や健康増進に取り組むなど、予防分野にも活動領域は拡大中です。
自分の興味や関心に合わせて多彩なキャリアを選択できる点は、大きな魅力の一つです。
理学療法士としてキャリアを積む上で、専門性を高めることは収入アップやキャリアの選択肢を広げる鍵となります。
日本理学療法士協会が認定する「専門理学療法士」や「認定理学療法士」といった上位資格を取得することで、特定の分野における高度な知識と技術を持つスペシャリストとして評価されます。
これにより、専門外来の担当や管理職への昇進、好待遇での転職が有利になる可能性があります。
また、豊富な臨床経験を活かして、教育者として後進の育成に携わったり、独立開業して自分の理想とするリハビリテーションを提供するという道も開かれています。
理学療法士という仕事には、特有のやりがいと厳しさがあります。
そのため、誰にでも務まるわけではなく、個人の特性や価値観によって向き不向きが分かれる職業です。
自分が理学療法士に向いているのかどうかを客観的に見極めることは、将来のキャリア選択で後悔しないために非常に重要です。
ここでは、理学療法士に求められる資質を基に、向いている人とそうでない人の特徴をそれぞれ具体的に解説していきます。
理学療法士に向いている人の特徴として、まず挙げられるのが強い探求心と学習意欲です。医療の世界は日進月歩であり、リハビリテーションに関する知識や技術も常に進化し続けています。昨日まで常識だったことが、新しい研究によって覆されることも珍しくありません。
そのため、資格取得後も満足することなく、論文を読んだり研修会に参加したりして、常に最新の情報を学び続ける姿勢が不可欠です。患者一人ひとりの症状や状態に合わせた最適なリハビリを提供するため、どうすればもっと良くなるかを常に考え、探求し続けられる人は、優れた理学療法士になれるでしょう。
理学療法士の仕事は、患者との信頼関係なしには成り立ちません。
リハビリは時に痛みを伴い、思うように回復しないことで患者は不安や焦りを感じます。
そうした患者の心に寄り添い、励ましながら、根気強く目標達成へと導くコミュニケーション能力が極めて重要です。
相手の話を丁寧に聞き、気持ちを理解しようと努め、その人に合った言葉で説明や指導ができる能力が求められます。
また、医師や看護師など他職種とも円滑に連携する必要があるため、協調性や対人スキルも必須の資質となります。
理学療法士の仕事は心身ともにタフさが求められます。
患者の身体を抱えたり長時間中腰の姿勢で介助したりと日常的に体力的な負担がかかるため体力に自信がない人や腰痛などの持病がある人には厳しいかもしれません。
また患者の回復が思うように進まなかったり時には死に直面したりすることもあり精神的なストレスも大きい仕事です。
人の苦しみや痛みに共感しすぎると自分自身が精神的に参ってしまう可能性もあります。
人の生死に関わる場面が怖いと感じたりストレスをうまく発散できない人はこの仕事の厳しさに耐えられないかもしれません。
理学療法士を目指すなら、ネガティブな情報に惑わされるだけでなく、現実を直視した上で、後悔しないための準備をすることが重要です。
この仕事で失敗しないためには、資格取得というゴールだけでなく、その先にあるキャリアを具体的に見据え、主体的に行動を起こす必要があります。
ここでは、理学療法士という道を選んでから「こんなはずではなかった」と感じないために、学生時代や就職活動中に意識すべき3つのポイントを解説します。
理学療法士の労働環境は、勤務する施設によって大きく異なります。
給与水準、休日数、残業の有無、有給休暇の取得率などはもちろんですが、職場の雰囲気や人間関係、教育体制といった数字に表れない部分も重要です。
特に、新人の離職率が高い職場は、何らかの問題を抱えている可能性が考えられます。
就職活動の際には、求人票の情報だけでなく、病院や施設の見学、インターンシップに積極的に参加し、実際に働くスタッフの様子や職場の空気感を肌で感じることが大切です。
インターネットの口コミサイトなども参考に、多角的な情報収集を徹底しましょう。
特に新卒で就職する場合、初任給の高さや福利厚生の充実度だけに目を奪われず、入職後の教育制度が整っているかどうかを重視すべきです。
理学療法士としてのスキルや知識は、臨床現場での経験を通じて磨かれていきます。
新人時代にしっかりとした指導を受けられるかどうかは、その後の成長に大きく影響します。
プリセプター制度の有無、院内勉強会の頻度や内容、学会参加への補助など、病院や施設がどれだけ人材育成に力を入れているかを確認しましょう。
長期的な視点で、自分が専門職として成長できる環境を選ぶことが、結果的にキャリアの成功につながります。
漠然と理学療法士になるのではなく、「どのような分野で、どのような専門性を持ち、社会に貢献したいのか」という具体的な将来像を描くことが重要です。
例えば、将来的にスポーツ選手のサポートをしたいのであれば、整形外科に強みを持つ病院で経験を積むのが近道です。
高齢者の在宅生活を支えたいなら、訪問リハビリの分野に進むべきでしょう。
5年後、10年後の自分の姿をイメージし、そこから逆算して今何をすべきかを考えることで、日々の業務にも目的意識が生まれます。
特に最初の6年程度の経験が、その後のキャリアの土台を形成することを意識して計画を立てましょう。
理学療法士という職業について多くの方が疑問や不安を抱えています。
特に収入やキャリアチェンジ、就職の難易度といった現実的な問題は進路を考える上で非常に気になる点です。
ここでは理学療法士を目指す人や現役で働く人から寄せられることの多い質問にQ&A形式で簡潔にお答えします。
客観的な情報を得ることでより深くこの仕事を理解するための一助となるでしょう。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士の平均年収は約430万円です。
これは、経験年数や役職を含む全体の平均値であり、勤務先の規模や地域によっても差が生じます。
日本の給与所得者全体の平均年収と比較すると、同等かやや低い水準にあります。
理学療法士をやめた場合、身体や医療に関する専門知識を活かせる多様な転職先があります。
具体的には、医療機器や福祉用具のメーカー、フィットネスクラブのトレーナー、介護施設の機能訓練指導員、一般企業の健康管理部門などが挙げられます。
全く異なる分野へ挑戦する人も少なくありません。
理学療法士の養成校(専門学校や大学)が増加し、資格取得者が増えているため、以前より競争は激化しています。
しかし、高齢化社会の進展により需要自体は高いため、選り好みをしなければ就職先に困る可能性は低いです。
希望の分野や待遇の良い職場に就くためには、学生時代からの努力が不可欠であり、問題なくなれるでしょう。
理学療法士はやめとけと言われる背景には、昇給しにくい給与体系や供給過多への懸念、心身への負担といった厳しい現実が存在します。これらの課題は、職業選択をする上で必ず知っておくべき重要な情報です。しかし、その一方で、患者の回復を間近で支える大きな喜びや、専門家としてチーム医療に貢献できる誇りなど、この仕事でしか得られないかけがえのないやりがいがあるのも事実です。高齢化社会において理学療法士の需要は今後も高まり、活躍の場は病院だけでなく介護やスポーツ、予防分野へと広がっています。ネガティブな情報に流されることなく、仕事の多面的な実態を理解し、自分の適性やキャリアプランと照らし合わせることが、後悔のない選択につながります。
監修:日本リハビリテーション専門学校 吉葉 則和(理学療法士)
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