2025.04.29
作業療法

専門作業療法士とは、特定の作業療法分野において高度な専門性を持つことを証明する、日本作業療法士協会が認定する最上位の資格です。
この資格を取得するには、まず下位資格である認定作業療法士の資格を得る必要があります。
本記事では、専門作業療法士と認定作業療法士の違い、資格取得の具体的なメリットや、専門作業療法士になるにはどのようなステップを踏む必要があるのかを詳しく解説します。
専門作業療法士は、豊富な臨床経験と特定の専門分野における深い学識、そして研究能力を兼ね備えた作業療法のスペシャリストであることを示す資格です。
この資格は、同じリハビリテーション領域の専門職である理学療法士や、連携する医師などの他の医療専門家からも、その分野の第一人者として認識されるための客観的な指標となります。
資格の取得には厳しい要件が課されており、保有者は作業療法士の中でも特に高度な実践能力を持つ人材として評価されます。
作業療法士のキャリアアップ資格として、専門作業療法士と認定作業療法士の2つが存在します。
これらはしばしば混同されがちですが、専門性、取得難易度、キャリアパスにおける位置づけにおいて明確な違いがあります。
専門作業療法士は認定作業療法士の上位資格にあたり、より高度で広範な能力が求められます。
ここでは、両者の具体的な違いを3つの観点から比較し、それぞれの資格が持つ意味合いを明らかにしていきます。
認定作業療法士は、特定の分野で質の高い臨床実践能力を有することを示す資格です。
主に臨床現場でのスキルが重視され、後輩指導などの役割も期待されます。
一方、専門作業療法士は、高度な臨床実践能力に加えて、その専門分野における研究能力と教育・社会貢献能力まで求められるのが大きな違いです。
単に優れた実践家であるだけでなく、新たな知見を生み出す研究者としての側面や、研修会講師などを通じて業界全体に貢献する教育者としての役割を担う、より複合的な専門性が要求されます。
専門作業療法士の取得難易度は、認定作業療法士と比較して格段に高くなります。
最大の理由は、専門作業療法士の申請要件に「認定作業療法士資格の保有」が含まれている点です。
つまり、専門を目指すには、まず認定作業療法士になる必要があります。
さらに、認定取得後に5年以上の臨床実践経験や、査読付き論文の発表、全国規模の学会での発表といった、より高度な研究実績が求められます。
これらの厳しい条件をクリアする必要があるため、資格保有者は非常に少なく、その希少価値は高くなっています。
作業療法士のキャリアパスにおいて、資格は段階的に位置づけられています。
一般的な作業療法士から始まり、臨床経験を積んで専門性を高めた者が「認定作業療法士」を取得します。
そして、その認定作業療法士の中から、臨床実践能力に加えて研究能力や教育能力をも備えた一握りの人材が、最上位資格である「専門作業療法士」へと到達します。
専門作業療法士は、臨床のスペシャリストとしてだけでなく、大学教員や研究機関の研究者、学会の要職に就くなど、より多様で影響力の大きいキャリアを築くための足がかりとなる資格です。
専門作業療法士の資格取得は、長い年月と多大な努力を要しますが、それに見合うだけの多くのメリットが存在します。
自身の専門性を客観的に証明できるだけでなく、キャリアの選択肢を広げ、専門職としての価値を大きく高めることにつながります。
ここでは、資格を取得することで得られる具体的な4つのメリットについて、キャリア形成や専門性の向上、経済的な側面に触れながら解説します。
専門作業療法士の資格は、その分野において国内最高水準の専門知識と実践能力を有していることの客観的な証明となります。
これにより、患者やその家族からはもちろん、医師や看護師といったチーム医療を構成する他の専門職からも、深い信頼を得やすくなります。
また、資格取得の過程で自身の知識や技術を体系的に整理し、理論的背景に基づいた質の高いリハビリテーションを提供できるようになるため、作業療法士としての自信にもつながり、臨床実践における質の向上に直結します。
専門作業療法士という希少性の高い資格を保有していることは、キャリア形成において大きな強みとなります。
現在の職場において、専門分野のリーダーや主任、科長といった管理職への昇進で有利に働く可能性があります。
また、転職市場においてもその価値は高く評価されます。
特に、特定の疾患や領域に特化した専門病院や研究機関、教育機関などへの転職を考える際には、他の候補者との明確な差別化要因となり、より良い条件での採用や希望するポジションを得るための強力な武器となり得ます。
専門作業療法士は、臨床現場での実践だけでなく、後進の育成や業界全体の発展に貢献する役割も期待されます。
そのため、日本作業療法士協会や都道府県の作業療法士会、関連学会などが主催する研修会やセミナーで講師として招聘される機会が大幅に増えます。
自身の専門知識や経験を他の作業療法士に伝えることで、業界全体の質の向上に貢献できるのは大きなやりがいです。
こうした活動を通じて人脈が広がり、臨床以外の教育や研究といった分野での新たなキャリアパスが開ける可能性も高まります。
専門作業療法士の資格が直接的に給与アップにつながる施設はまだ多くありませんが、診療報酬の算定要件において間接的に評価される場合があります。例えば、特定の疾患別リハビリテーション料などでは、施設基準として専門性の高い職員の配置が求められることがあります。専門作業療法士が在籍していることで、より上位の施設基準を満たし、病院や施設の収益向上に貢献できる可能性があります。これにより、組織内での評価が高まり、結果として待遇改善につながるケースも考えられます。また、資格取得で得た高度な専門知識と実践能力は、臨床現場での問題解決能力を高め、患者さんへのより質の高いリハビリテーション提供に貢献します。さらに、専門作業療法士は、研修会の講師や学会発表などを通じて、自身の専門性を広く社会に還元する機会が増え、作業療法士としての活躍のフィールドを大きく広げることができます。このように、直接的な給与アップが少ない場合でも、専門作業療法士の資格は、自身の専門性を高め、キャリアを豊かにするための非常に有用な資格と言えるでしょう。
専門作業療法士の資格は、特定の専門分野ごとに認定されます。
2023年現在、日本作業療法士協会が定めている専門分野は12領域あり、これらは福祉用具や手の外科などを含む「A領域」、がんや摂食嚥下などを含む「B領域」、精神科領域の「C領域」、そして就労支援や特別支援教育などから成る「D領域」という4分野に大別されます。
自身のキャリアや興味に合わせて、どの分野のスペシャリストを目指すかを選択することになります。
福祉用具
手の外科
義肢装具
認知症
高次脳機能障害
摂食嚥下
がん
精神科急性期
地域精神科
就労支援
特別支援教育
脳血管障害
専門作業療法士になるには、長期的な視点でのキャリアプランニングと地道な努力の積み重ねが不可欠です。作業療法士の国家資格取得後、すぐに目指せるものではなく、いくつかの段階的な要件をクリアしていく必要があります。
ここでは、専門作業療法士になるための道のりとして、認定作業療法士資格の取得に加え、「研修実践」「臨床実践」「研究実践」「教育と社会貢献の実践」の4つの実践を満たし、最終的に認定審査に合格するまでの流れを解説します。
専門作業療法士を目指すための最初の、そして必須のステップが、下位資格である認定作業療法士の資格を取得することです。
認定作業療法士になるためには、作業療法士として5年以上の臨床実践経験に加え、日本作業療法士協会が指定する研修の受講や、事例報告を3例以上行うなどの要件を満たさなければなりません。
この段階で、すでに一定レベルの専門性と実践能力が求められるため、計画的な研修受講と日々の臨床経験の積み重ねが重要になります。
認定作業療法士の資格を取得した後、さらに専門分野における5年以上の臨床実践経験を積む必要があります。この期間は、認定作業療法士として専門性をより深め、高度な実践能力を磨くための重要な時間となります。
専門作業療法士の資格は、認定作業療法士としての5年以上の臨床経験に加え、各専門分野で定められた要件を満たすことで取得できます。例えば、精神科急性期分野では10年以上の経験や50事例以上の経験などが求められます。これらの要件を合わせると、通算で10年以上の臨床経験が必要となる場合もあり、専門作業療法士がいかに経験豊富な実践者に与えられる資格であるかがわかります。この期間に、学会発表や研究活動にも積極的に取り組むことが後のステップにつながります。
専門作業療法士になるためには、日本作業療法士協会が定める「専門作業療法士共通研修」と、自身が目指す分野の「専門分野別研修」をすべて修了する必要があります。
これらの研修では、高度な臨床実践に関する内容だけでなく、研究倫理や研究計画の立案、統計手法、さらには後進を指導するための教育方法論など、より学術的で指導者としての能力を高めるための科目が含まれています。
臨床スキルだけでなく、研究者・教育者としての素養を身につけることが目的です。
専門作業療法士の申請においては、専門分野での高度な研究能力を示す実績が重要です。具体的には、認定作業療法士取得後の研究実践の成果(論文、著書、学会発表など)の提出が求められ、これらを通じて10専門単位以上の取得が必要とされています。査読制度のある学術雑誌への論文掲載や、全国規模の学会での口述発表といった客観的に評価された研究実績が、その証となります。日々の臨床から生まれた疑問を探求し、学術的な手続きに則って研究を進める能力が問われます。
これまでのステップで全ての要件を満たした後、専門作業療法士の認定審査に申請できます。
申請時には、臨床実践歴や研修修了証、研究実績を証明する書類など、多岐にわたる資料を提出します。
審査は主に書類審査と筆記試験によって行われ、提出された資料と筆記試験の結果から専門作業療法士として相応しい能力と実績を有しているかが総合的に判断されます。
専門作業療法士の資格は、一度取得すれば永続するものではなく、5年ごとの更新が義務付けられています。
資格を維持するためには、この5年間に、指定された研修の受講、学会での発表、学術雑誌への論文投稿、研修会での講師活動など、日本作業療法士協会が定める更新要件を満たす必要があります。
これは、専門作業療法士が常に最新の知識と技術を学び続け、専門分野の発展に貢献し続ける存在であることが求められるためであり、継続的な自己研鑽が不可欠です。
専門作業療法士という高い目標を持つことは素晴らしいことですが、作業療法士を目指す学生の皆さんがまず集中すべきは、その土台となる作業療法士の国家資格を取得することです。
専門作業療法士への道は、国家試験に合格し、作業療法士としてのキャリアをスタートさせることから始まります。
日々の学業を着実にこなし、臨床実習で実践的な経験を積み、国家試験の合格に向けて万全の準備を整えることが、将来のキャリアの第一歩です。
作業療法士になるには、まず高校を卒業した後、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する養成校に入学し、3年以上専門知識と技術を学ぶ必要があります。
養成校には、4年制大学、3年制の短期大学、3年制または4年制の専門学校といった選択肢があります。
4年制大学では、専門知識に加えて幅広い教養や研究手法を深く学べる一方、専門学校ではより実践的な技術の習得に重点が置かれる傾向にあります。
いずれのルートを選んでも、卒業することで作業療法士国家試験の受験資格が得られます。
専門作業療法士は、まだ広く知られているとは言えず、その役割や資格について多くの人が関心を持っています。特に、資格取得がキャリアに与える影響や、現在の取得者数に関する具体的な情報への関心が高いようです。
専門作業療法士の資格取得が直接的に給与にどのような変化をもたらすかについての詳細なデータは限られていますが、関連資格の取得は給与アップに繋がる可能性も指摘されています。なお、2022年12月時点での専門作業療法士の取得者数は142名です。全国の作業療法士全体の有資格者数は、2022年3月時点で104,286人、2024年3月31日時点の日本作業療法士協会の会員数は63,934人です。
ここでは、専門作業療法士に関して寄せられることの多い質問に、簡潔にお答えします。この資格の価値や現状を正しく理解するための参考にしてください。
資格手当は、資格を持つ従業員に支給される手当であり、毎月の給与に上乗せされることで給与増加につながります。多くの企業で資格取得の支援や資格手当の支給が見られ、一般化しています。しかし、資格保有者は高度な専門性を持つ人材として評価され、昇進や役職への登用で優遇される可能性があります。
また、より条件の良い専門病院などへ転職する際に有利に働き、結果として収入アップにつながるケースは考えられます。
日本作業療法士協会のデータによると、2023年4月1日時点での専門作業療法士数(延べ人数)は152名です。これは日本の作業療法士全体の約0.14%に過ぎず、この数字からも資格取得の難易度の高さがうかがえます。専門作業療法士の資格保有者は非常に少なく、希少価値が高いと言えるでしょう。
「専門作業療法士S」という公式な資格は存在しません。
これは、日本作業療法士協会が定めた正式な資格区分ではなく、一部の研修会や特定のコミュニティ内で、専門作業療法士の中でも特に指導的・教育的な役割を担う人物を指すために便宜的に使われている呼称のようです。
専門作業療法士は特定の分野において高度な臨床実践能力、研究能力、教育能力を併せ持つことを証明する作業療法士の最上位資格です。
その取得には認定作業療法士資格の取得を前提とした上でさらに長年の臨床経験や研修、研究実績が求められるため道のりは長く険しいものと言えます。
しかし資格を取得することで得られる専門性の証明やキャリアの可能性は大きく作業療法士として専門性を追求し続けたい者にとって目指すべき価値のある目標となる資格です。
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