2025.11.24
作業療法
柔道整復師が作業療法士を目指すべき5つのポイントについて詳しく解説
柔道整復師としてのキャリアを考える中で、さらなるスキルアップや活躍の場の拡大を目指す選択肢として、作業療法士の資格取得があります。
この「ダブルライセンス」は、異なる専門性を融合させることで、より多角的な視点から患者を支援する可能性を秘めています。
柔道整復師が持つ急性の外傷への対応力に、作業療法士が持つ日常生活再建の支援能力が加わることで、提供できるサービスの質と幅が大きく向上します。
本記事では、柔道整復師が作業療法士を目指す具体的なメリットや、そのためのステップについて詳しく解説していきます。
柔道整復師と作業療法士はともに国家資格を要する専門職ですが、その役割やアプローチの方法には明確な違いが存在します。
柔道整復師は主に骨折や脱臼といった急性のケガに対応する専門家です。
一方で、作業療法士は、身体や精神に障がいを持つ人々が日常生活を送るためのリハビリテーションを担います。
しばしば比較される理学療法士が「立つ」「歩く」といった基本的な動作能力の回復を目指すのに対し、作業療法士は食事や入浴といったより応用的、かつその人らしい生活を送るための「作業」に焦点を当てる点に特徴があります。
この基本的な違いを理解することが、両者の専門性を知る第一歩です。
柔道整復師は、骨・関節・筋・腱・靭帯などに発生する骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷といった急性の外傷に対して、手術をしない「非観血的療法」によって治療を行う専門家です。
主な業務は、骨折や脱臼でずれた骨や関節を元の位置に戻す「整復」、患部を固定して安定させる「固定」、そして回復を促すための「後療法」の3つに分けられます。
後療法では、手技療法を用いて硬くなった筋肉をほぐしたり、運動療法で関節の動きを改善したりします。
このように、柔道整復師は主にケガが発生した直後の急性期において、損傷した組織の治癒を促進し、身体機能の回復を図る役割を担っています。
作業療法士は、病気やケガ、あるいは生まれつきの障がいによって身体や精神の機能が低下した人々に対し、その人らしい生活を取り戻すための支援を行うリハビリテーションの専門職です。
食事、着替え、入浴といった日常生活の基本的な活動から、仕事や趣味、地域活動への参加まで、あらゆる「作業」を通じて心身機能の回復を目指します。
例えば、脳卒中の後遺症で手が動かしにくくなった人には、箸を使う練習や着替えの工夫を指導します。
また、精神的な障がいを持つ人に対しては、創作活動やグループワークを通じて、コミュニケーション能力や自信の回復を促すことも重要な仕事です。
柔道整復師と作業療法士は、どちらも人の身体に関わる専門職ですが、具体的な業務内容には多くの違いがあります。
両者の専門性をより深く理解するために、ここでは「アプローチする対象」「治療や施術の目的」「活躍できる職場」「開業権の有無と範囲」という4つの視点から、それぞれの特徴を比較していきます。
これらの違いを知ることで、柔道整復師が作業療法士の資格を取得した際に、どのような知識やスキルが補完されるのかが明確になります。
柔道整復師が主に対応するのは、スポーツ活動や日常生活の中で発生した骨折、脱臼、捻挫などの急性外傷を負った患者です。
ケガをした直後の応急処置から、その後の回復に向けた施術までを担当します。
一方、作業療法士がアプローチする対象は非常に幅広く、病気やケガの発症後、急性期を脱して心身機能の回復を目指すリハビリ期の患者が中心です。
また、脳血管疾患の後遺症、発達障がい、認知症、精神障がいを持つ人々など、年齢や疾患を問わず、生活に困難を抱えるあらゆる人が対象となります。
作業療法士は、医師の診断や指示に基づき、個々の状態に合わせたリハビリテーション計画を立てて支援を進めます。
治療や施術における目的も両者で大きく異なります。
柔道整復師の主な目的は、損傷した患部の治癒を促進し、痛みを和らげ、失われた身体機能を回復させることです。
整復や固定、温熱療法、電気療法、マッサージを含む手技療法などを通じて、ケガをした部位そのものに直接働きかけます。
対して作業療法士の目的は、単に身体機能を回復させるだけでなく、その人が主体的に生活を再建できるよう支援することにあります。
食事の準備や趣味活動など、具体的な作業活動を通して、応用的な動作能力や精神的な安定を取り戻し、社会参加を実現することが最終的なゴールです。
柔道整復師の主な活躍の場は、街中にある接骨院や整骨院です。独立開業するケースも多く、地域に根差した医療を提供しています。
その他、整形外科クリニックでの勤務や、プロスポーツチームに帯同するスポーツトレーナーとして専門性を発揮する道もあります。一方、作業療法士の職場は非常に多岐にわたります。総合病院やリハビリテーション専門病院、精神科病院といった医療機関をはじめ、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどの介護保険施設、障がい者支援施設、児童発達支援センター、さらには訪問看護ステーションや就労支援施設など、医療・福祉・教育の幅広い領域でその専門性が求められます。
柔道整復師には、施術所(接骨院・整骨院)を単独で開設できる「開業権」が認められています。
これは、他の医療関連職種と比較しても大きな特徴の一つです。
ただし、健康保険を適用して施術を行う場合、骨折および脱臼については応急手当を除き、医師の同意が必要という制約があります。
一方で、作業療法士には単独での開業権はありません。
医療行為であるリハビリテーションは、医師の指示のもとで行われるため、病院や介護施設などの組織に所属して働くのが一般的です。
訪問リハビリテーション事業所などを設立することは可能ですが、運営には医師との連携が不可欠であり、その難易度は決して低くありません。
柔道整復師が作業療法士の国家資格を併せ持つことには、キャリアの可能性を大きく広げる多くのメリットがあります。
急性期の外傷に対応する知識と、生活再建を支援するリハビリテーションの視点を両立させることで、より包括的なサービスを提供できる専門家へと成長できます。
ここでは、対応できる患者層の拡大、キャリアパスの多様化、収入の安定化など、具体的な5つのメリットを挙げ、ダブルライセンスがもたらす価値について掘り下げていきます。
柔道整復師が対応する主な対象は急性のケガを負った患者ですが、作業療法士の資格を取得することで、脳血管疾患の後遺症を持つ方や、発達障がいのある子ども、認知症の高齢者など、アプローチできる患者層が格段に広がります。
例えば、接骨院で骨折の治療をした高齢の患者が、退院後に自宅での生活動作に不安を抱えている場合、作業療法士としての知識を活かして、住宅改修のアドバイスや自助具の選定、具体的な動作訓練まで行えます。
ケガの治療から生活復帰までを一貫してサポートできるようになり、施術の幅が大きく向上します。
柔道整復師の主な就職先は接骨院や整形外科クリニックですが、作業療法士の資格があれば、活躍の場は医療・福祉分野全般に広がります。
総合病院のリハビリテーション科、回復期リハビリテーション病棟、介護老人保健施設、訪問看護ステーションなど、柔道整復師の資格だけでは就職が難しい多様な職場へのキャリアパスが開けます。
特に高齢化が進む現代において、リハビリテーション専門職の需要は高く、安定した環境で専門性を発揮したいと考える場合に大きなアドバンテージとなります。
多様な現場を経験することで、自身のスキルや知見をさらに深める機会も増えます。
柔道整復術が主に身体の構造や機能に焦点を当てるのに対し、作業療法は身体機能に加え、精神面や高次脳機能、認知機能へのアプローチを専門とします。
例えば、ケガによって長期間の安静を強いられ、意欲が低下してしまった患者に対し、趣味活動などの「作業」を通じて精神的な安定や自己肯定感の回復を促すことができます。
また、認知症の患者が安全に日常生活を送れるよう、環境調整や関わり方を工夫することも作業療法士の重要な役割です。
身体と心の両面から患者を全人的に理解し、より深いレベルでの支援を提供できるようになる点は大きな強みです。
作業療法士は、病院や介護施設など幅広い領域で需要があるため、柔道整復師と比較して求人数が多く、安定した雇用が見込める傾向にあります。
特に医療機関や介護保険施設では、診療報酬や介護報酬制度に基づいて人員が配置されるため、経営が安定している場合が多いです。
柔道整復師と作業療法士の両方の資格を持つ人材は非常に希少であり、その専門性の高さを評価され、給与面で優遇される可能性も高まります。
就職先の選択肢が増えることで、より良い労働条件の職場を選ぶことができ、キャリア全体を通じた収入の安定化と向上が期待できます。
将来、柔道整復師として接骨院の開業を目指す場合、作業療法士の資格は他院との強力な差別化要因となります。
一般的な接骨院がケガの治療や痛みの緩和を主目的とするのに対し、リハビリテーションの視点を取り入れた独自のサービスを展開できます。
例えば、「ケガの治療後、問題なく仕事や趣味に復帰するための身体の使い方指導」や「高齢者の転倒予防と生活機能維持のためのトレーニングプログラム」などを提供することで、付加価値の高いサービスとしてアピールが可能です。
介護保険サービスである訪問リハビリテーション事業所を併設するなど、事業の多角化も視野に入れられます。
柔道整復師の資格を持つ人が、新たに作業療法士を目指す場合、定められた教育課程を経て国家試験に合格する必要があります。
すでに医療系の国家資格を持っていることで、一部の学習内容に親しみやすさはあるかもしれませんが、作業療法士としての専門知識と技術を基礎から学ぶプロセスは不可欠です。
ここでは、作業療法士の資格を取得するための具体的な流れを、養成校での学習と国家試験の受験という2つのステップに分けて解説します。
作業療法士になるためには、まず文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する大学、短期大学、専門学校などの養成校に入学し、3年以上必要な知識と技術を修得する必要があります。
柔道整復師の資格を取得する際に履修した解剖学や生理学などの基礎科目について、一部が単位認定される制度を設けている学校もあります。
これにより、修業年数が短縮されたり、カリキュラムの一部が免除されたりする可能性があります。
社会人経験者向けに夜間部を設置している専門学校や、編入学制度を利用できる大学もあるため、自身のライフスタイルに合った養成校を選択することが重要です。
養成校で定められた全カリキュラムを修了し、卒業見込みとなることで、年に1回、通常は2月に行われる作業療法士国家試験の受験資格を得られます。
試験はマークシート方式の筆記試験で、基礎医学(解剖学、生理学、運動学など)や臨床医学、リハビリテーション医学、そして作業療法に関する専門分野から幅広く出題されます。
柔道整復師の国家試験とは出題範囲や問われる視点が異なるため、養成校での学習と並行して、計画的に試験対策を進めることが合格の鍵となります。
この国家試験に合格し、厚生労働省の名簿に登録されることで、正式に作業療法士として活動できるようになります。
柔道整復師と作業療法士のダブルライセンスは、全ての柔道整復師にとって最適な選択とは限りません。
しかし、特定の目標や価値観を持つ人にとっては、キャリアを大きく飛躍させる強力な武器となります。
ここでは、どのような志向を持つ柔道整復師にダブルライセンスの取得が特におすすめできるのか、具体的な人物像を3つのタイプに分けて紹介します。
自身の将来像と照らし合わせながら、資格取得の意義を考えてみてください。
ケガを治すだけでなく、その後の患者の人生や生活背景まで含めて、トータルでサポートしたいという思いが強い人には、作業療法士の資格取得が非常に有益です。
柔道整復師としての施術に加え、患者が退院後に自宅で安全に過ごすための環境設定や、仕事に復帰するための具体的な動作訓練など、より生活に密着した支援が可能になります。
患者が「自分らしい生活」を取り戻すプロセスに深く関わり、長期的な視点で寄り添うことにやりがいを感じる人にとって、作業療法の知識と技術は大きな力となります。
接骨院だけでなく、より広いフィールドで自身の専門性を発揮し、安定したキャリアを構築したいと考えている人にもダブルライセンスはおすすめです。
作業療法士は病院や介護老人保健施設、訪問看護ステーションなど、医療保険や介護保険制度下で運営される組織での需要が非常に高い専門職です。
柔道整復師の資格だけでは得難い多様な就職先の選択肢が生まれ、景気の変動にも比較的左右されにくい安定した雇用環境で働き続けることが可能になります。
様々な現場で経験を積むことで、自身の専門性をさらに高めていけます。
将来的に自身の施術所を開業し、地域で唯一無二の存在になりたいというビジョンを持つ柔道整復師にとって、作業療法士の資格は強力な武器です。
単なる痛みの治療にとどまらず、「生活の質」の向上までを視野に入れたサービスを提供できるため、他の接骨院との明確な差別化が図れます。
例えば、子どもの発達支援や高齢者の認知症予防プログラムなどを導入することも可能です。
急性期の外傷から生活期のリハビリテーションまでを一貫して提供できる施設として、地域住民や他の医療・介護機関から厚い信頼を得られるでしょう。
柔道整復師が作業療法士の資格を取得することは、急性の外傷治療という専門性に加え、心身のリハビリテーションを通じて日常生活を支援するという新たな視点をもたらします。
これにより、対応できる患者層が拡大し、病院や介護施設といった多様なフィールドへのキャリアパスが開けるなど、多くのメリットが生まれます。
資格取得には養成校での学習と国家試験の合格が必要ですが、患者の生活に深く寄り添いたい、安定したキャリアを築きたい、あるいは将来の独立開業で独自の強みを発揮したいと考える柔道整復師にとって、その努力は将来の可能性を広げる価値ある投資と言えます。
監修:日本リハビリテーション専門学校 栗原実里(作業療法士)
グループ校