2025.11.22
作業療法

子どもの成長を支援する仕事に興味があるけれど、保育士や教員とは少し違うアプローチを探している人もいるかもしれません。
作業療法士は、リハビリの専門職として知られていますが、実は子どもの発達を支援する領域でも大きな役割を担っています。
この記事では、遊びを通して子どものできた!を育む発達領域の作業療法士の仕事内容から、資格取得の方法までを具体的に解説します。
作業療法とは、食事や着替え、学習、遊びといった、人が行う生活に関わる全ての活動を「作業」と捉え、それらを活用して心と体の機能を高めるリハビリテーションの一分野です。
特に子どもの作業療法では、子どもにとって最も自然な活動である「遊び」を主な手段として用います。
一見ただ遊んでいるように見えても、その中には体の使い方やコミュニケーション、思考力などを育むための専門的な視点に基づいた工夫が凝らされています。
縄跳びやボール投げが極端に苦手、落ち着きがなくじっとしていられない、文字をきれいに書けないといった困りごとは、幼児期や児童期の子どもによく見られます。
これらは単なる個性や性格の問題だけでなく、体の使い方や感覚の受け取り方に特性があることが原因の場合もあります。
作業療法は、このような発達に関する悩みを抱える子ども一人ひとりの特性を評価し、その子に合った方法で成長をサポートします。
作業療法士の支援は、決まったプログラムをこなすのではなく、子どもの年齢や発達の段階、興味関心、そして苦手なことに合わせて個別に計画されます。
いわば、一人ひとりのためのオーダーメイドの支援です。
ここでは、日常生活のスキルの習得から学習の土台づくり、社会性の向上まで、作業療法士が行う具体的な支援内容について、いくつかの側面に分けて紹介していきます。
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ボタンのかけ外しや箸の使い方、靴ひもを結ぶといった日常の動作は、手指の細かい動きや両手の協調性が必要です。
作業療法では、これらのスキルをただ繰り返して練習するのではなく、子どもが意欲的に取り組めるように支援します。
例えば、粘土やビーズ、パズルといった遊びを通して指先の力を養ったり、的当てゲームで体の使い方を学んだりします。
また、子どもが使いやすいスプーンや鉛筆の補助具を提案するなど、環境面からのアプローチも行い、子どもが「自分でできた」という達成感を得られる機会を増やします。
特定の音や光を極端に嫌がったり、逆に体を強くぶつけたり回ったりすることを好む子どもがいます。
これは、周りからの刺激を脳がうまく整理できない「感覚」の問題が背景にあるかもしれません。
作業療法では、ブランコやトランポリン、バランスボールなどの遊具を使い、揺れや圧迫といった様々な感覚刺激を計画的に提供します。
このアプローチは感覚統合療法※と呼ばれ、脳が感覚情報を整理しやすくなるように促し、結果として落ち着いて行動できるようになることを目指します。
※感覚統合療法:遊びを通して脳の感覚処理機能を高め、行動や情緒の安定を図るリハビリテーションの手法。
文字を読んだり書いたり、授業に集中したりするためには、その前提となる様々な力が必要です。
例えば、目で見た形を正確に捉える力(視知覚)、正しい姿勢を保つ力、鉛筆を意図した通りに動かす手指の巧緻性などが挙げられます。
作業療法では、これらの学習の土台となる力を育むために、線なぞりや間違い探し、組み立てブロックなどの活動を取り入れます。
子どもが楽しみながら取り組める課題を通して、学習に必要な基礎的な能力を養い、学校での学びにつなげていきます。
集団の中でルールを守る、順番を待つ、相手の気持ちを考えるといった社会性は、経験を通して少しずつ身についていきます。
作業療法では、子ども一人に対する個別支援だけでなく、数人のグループで活動を行うこともあります。
すごろくなどのボードゲームや、協力して何かを作り上げる共同作業を通して、子ども同士が自然に関わる機会を提供します。
その中で、作業療法士はコミュニケーションの仲立ちをしたり、ルールの確認をしたりしながら、子どもたちが社会的なスキルを学んでいけるようにサポートします。
作業療法士の役割は、子どもに直接関わることだけではありません。
子どもの特性や行動の理由を保護者に分かりやすく伝え、家庭での関わり方や生活環境の整え方について具体的なアドバイスを行います。
また、保育園や幼稚園、学校の先生と連携することも重要です。
集団生活の中で子どもが過ごしやすくなるよう、座席の配置を工夫したり、指示の出し方を提案したりするなど、子どもを取り巻く環境全体に働きかけ、関係者と協力しながら支援を進めていきます。
子どもの成長を支える作業療法士は、様々な場所で活躍しています。
医療機関はもちろんのこと、地域の福祉施設や教育現場など、そのフィールドは多岐にわたります。
それぞれの施設で求められる役割は少しずつ異なりますが、いずれも子どもの発達を支援するという共通の目的を持っています。
ここでは、主な活躍の場とその役割について紹介します。
大学病院の小児科やリハビリテーション科、発達外来を持つ地域のクリニックなどが主な職場です。
これらの医療機関では、医師の診断に基づき、病気や障害のある子どもに対して専門的なリハビリテーションを提供します。
発達の遅れや障害の早期発見・早期介入の拠点としての役割が大きく、理学療法士や言語聴覚士、臨床心理士といった他の専門職とチームを組んで支援にあたることが特徴です。
精密な検査や評価に基づいた、医学的根拠のあるアプローチが求められます。
児童発達支援センターは未就学児、放課後等デイサービスは主に小学生から高校生までの子どもが通う福祉施設です。
近年、ニーズが非常に高まっている分野であり、作業療法士の活躍の場として大きく広がっています。
医療機関に比べて、より生活に根ざした視点での支援が中心となります。
遊びや集団活動、日常生活の練習を通して、個々の支援計画に基づいた療育を提供します。
保育士や児童指導員など、様々な職種のスタッフと連携しながら、子どもたちの健やかな成長を支えます。
特別支援学校に在籍する作業療法士は、教員と協力し、子どもたちが学習や学校生活にスムーズに参加できるよう専門的な立場から支援します。
例えば、文字が書きやすいように机や椅子の高さを調整したり、授業で使う教材を工夫したりします。
また、最近では通常の小中学校や保育園などを巡回し、気になる子どもの様子を観察して担任の先生にアドバイスをする、巡回相談員としての働き方も増えています。
教育現場と連携し、インクルーシブ教育の推進に貢献する役割も担います。
インクルーシブ教育:障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に学ぶ仕組み。
子どもの発達に関する社会的な関心の高まりとともに、一人ひとりの特性に合わせた専門的な支援の重要性が認識されるようになり、作業療法士の需要は増加しています。
特に小児分野では、従来の医療機関だけでなく、保育園や児童発達支援事業所といった福祉・教育現場での活躍が期待されています。
子どもの発達を多角的に捉え、その子らしい成長を支える専門家として、社会から求められる場面は今後さらに増えていくと考えられます。
多様な働き方が可能で、キャリアを継続しやすい点も魅力の一つです。
作業療法士として働くためには国家資格の取得が必要です。
まず高校を卒業後文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する大学短期大学専門学校といった養成校で3年以上学びます。
養成校では医学的な知識からリハビリテーションの専門技術そして発達心理学など幅広い分野を履修します。
規定のカリキュラムを修了することで国家試験の受験資格が得られ年に一度実施される国家試験に合格すると作業療法士の免許が交付されます。
子どもの発達を支援する作業療法士は、遊びというアプローチを通して、体の使い方から心の成長までをサポートする専門職です。
その活躍の場は医療・福祉・教育と幅広く、社会的な需要も高まっています。
子ども一人ひとりの個性に深く寄り添い、その子が持つ可能性を最大限に引き出す手伝いができる、非常にやりがいのある仕事です。
子どもが好きで、より専門的な視点から成長を支えたいと考える人にとって、作業療法士は魅力的なキャリアの選択肢となり得ます。
【監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部正美(作業療法士)】
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