作業療法で行う編み物や手芸で得られる効果とスプールウィービング

作業療法ってどんなことをするの?

作業療法では、いろいろな作業活動を治療手段として使用します。折り紙や陶芸、色塗りや籐細工、そして編み物などの手芸があります。このような作業療法の手段を、患者様によってどれを提供するのか、どのくらいの難易度で行ってもらうのかなど、考えながら実施します。

例えば、認知症の方には、日付や場所など現実的な項目を含むものを行うことで自分の今の状況を少しでも認識できるような機会を提供するようにする。また、毎日同じ作業を行うことで仕事として習慣化するようにする、昔行っていた作業を行い思い出す機会をつくるなどの方法があります。

また、片麻痺の方には、今の手の機能をどれだけ活かすことが出来るようにするかが重要となります。まずは両手で行う簡単な作業から始めて、徐々に難易度を上げていくようにしています。

その中でも編み物や手芸は、割と多くの患者さんに実施しています。「力強く握る」「引っ張る」などの作業があり筋力低下に有効であることと、人によってやり方や手順を変えやすいこと、自宅でも手軽にリハビリテーションをおこなうことができることが理由です。

作業療法で使われる定番「スプールウィービング」

作業療法の定番は、「スプールウィービング」を使ったものでしょう。これは作業療法の教科書にのるほど定番です。

スプールウィービングを使えば片麻痺の方、手の不自由な方・高齢者でも帽子・マフラー・編みぐるみを編むことができます。指で毛糸を摘む動作ができると、スプールウィービングで編むことができます。実際にリハビリの現場で行われている手指の訓練方法でもあります。この単純動作を繰り返すだけで帽子やマフラー、編みぐるみが片手で編めます。

これは1975 年に松田美穂作業療法士が考案して以来、ほぼ変わらず使われているそうです。対象者が幅広いことも理由の一つですが、編みはじめや編み終わりの仕上げの手助けをしてもらうことができ、人間関係の構築になることから人気が出ました。作品の相談や家族や友人へのプレゼント、バザーへの出店なども人との関わりを促進しますね。

編み物・手芸から得られる効果

編み物や手芸からは、さまざまな効果を得ることができます。まず1つは、マフラーやセーターなどの完成度の高い作品により満足感、達成感、自信が持てることです。これは一つの大きなリハビリテーションの効果と言えます。

そして、編み物は一定のリズムで同じ動作を繰り返す動作です。これは、瞑想と同じ効果を得ることが期待されています。さらに気分を調節するホルモンであるセロトニンの放出の増強につながることがわかっています。これは不安やストレスの軽減、うつ病の症状緩和につながります。

編み物はその工程から非常に手指、上肢、姿勢の保持能力が求められます。編み目を間違わないように注意をし、指先の感覚と手元が狂わないように姿勢を保持しながら操作をします。これによって運動機能の向上につながるでしょう。認知症の予防も期待されます。編み物は非常に脳全体を刺激するのに最適な作業活動です。

このように、編み物をはじめとする手芸は作業療法士にとってとても重要な医療行為です。昔から変わらず行われているリハビリではありますが、今後さらに幅を広げ効果を高めていきたいですね。

作業療法士と理学療法士の需要と供給、就職状況、年収の違いについて

作業療法士と理学療法士の数と需要

作業療法士は、回復と心のリハビリテーションにおけるスペシャリストです。人の生活におけるあらゆる活動を本人が望む生活ができるようにしていく治療やサポートを行います。

理学療法士は、身体機能のリハビリテーションのスペシャリストです。身体に障がいのある人の基本的な動作能力の回復や維持、悪化の予防などを行う仕事です。具体的には、起き上がりや立ち上がり、歩行の訓練など、運動的手段や電気的刺激・マッサージなどの物理的手段によって運動機能の回復を図ります。

では、現在実際に作業療法士・理学療法士の資格を持っている人はどのくらいいるのでしょうか?

作業療法士は94,295人・理学療法士は172,084人(2020年度時点)です。

作業療法士の方が理学療法士に比べて有資格者の人数が少ないです。同じ年に国家資格になっていますが、それまでリハビリテーションと言えば身体機能を指すイメージがあったことと、理学療法士の方が養成校の数も多く、受験者数・合格者数ともに多い結果となりました。

ですが、超高齢化社会を迎えている現代においては、活躍の場は作業療法士の方が増えていく余剰があると言えるでしょう。介護との融合や小児領域への展開など、まだまだ作業療法士の需要は増加していきます。

男女割合から見た就職状況について

作業療法士・理学療法士の男女比を見てみると、作業療法士は女性の割合が若干多く6割、逆に理学療法士は女性4割・男性が6割という結果になりました。

就職のしやすさで言うとどちらが良いということはなく、男女平等に就職活動をすることができ、実際に仕事をしてみても大きな男女差はありません。

2つの資格で男女割合の違いがある理由は、仕事内容が作業療法士の方が女性的・女性が得意な分野が多いことがあげられます。

理学療法士は運動機能のリハビリテーションが主で、筋肉トレーニングなどに興味のある方が目指しやすい傾向にあります。対して作業療法士は、生活に即した細かなリハビリテーションが多く、また芸術的な技能があると良いこともあり女性的な側面が要求されやすいのかもしれません。

もう1点、日本では女性の高齢者率が高いため、対象となる患者さんに女性が多く、異性よりも同性の方がより生活に寄り添いやすいという理由も言われています。

就職してからの女性の待遇については、女性の割合の多い作業療法士はもちろんのこと理学療法士についても近年目覚ましく改善されています。結婚・出産してからも仕事を続ける女性が増えていることから、作業療法士・理学療法士がパートタイムで働きやすくなるようにルールが改定されてきました。

作業療法士・理学療法士はどちらも夜勤がなく、ワークライフバランスがとりやすい職業です。病院の受付時間は決まっているので残業も少なく、平均月5時間という調査結果も出ていますよ。

作業療法士と理学療法士の年収の違い

作業療法士と理学療法士に就職したいと考えるなら、年収のことが気になりますよね。

職業別の年収は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査で見ることができます。しかし、「理学療法士および作業療法士」というくくりで発表されているため、2資格は同じ数値になっています。

作業療法士・理学療法士ともに、平均年収は31.8歳で約407万円でした。月額給与は約28万円・ボーナスは年間約70万円です。

2資格をまとめて発表されていますが、分野別の年収比較でみると医療分野が474万円であるのに対し、介護分野は419万円と50万円以上の開きがあります。

一般病院や総合病院といった医療機関はスタッフ数が多い事や教育なども盛んである一方、介護分野は十分な人員を確保しづらいという側面があるようです。

どちらの資格の年収が多いかというよりは、就職する場所によって違いがあります。

理学療法士と作業療法士の違いについて、就職以外の観点からも気になる方は以下のページをご覧ください。

理学療法士と作業療法士の違いとは? >>

文系から医療分野へ!リハビリテーションの専門職「作業療法士」という仕事

文系出身者が作業療法士に向いている理由

リハビリテーションの専門職である「作業療法士」は、医療系の国家資格です。「理系の人じゃないとなれないのでは?」と思われがちですが、実は文系・理系両方の側面を持った仕事なんです。

まず、文系の人が得意とする、対話能力や文章力、表現力、心理的な洞察力は、作業療法を行う上でなくてはならない技能です。

問診で患者さんの意図を読み取ることや、カルテで患者さんの状態を他職種の人に伝えることなどは、文系の方が得意と言えるでしょう。ご家族のサポートや心理的なケアを含めると、作業療法は「人との関わり」が重要な仕事です。

同じリハビリ専門職である理学療法士も同じく文系的な部分がありますが、生活全般に関わる作業療法士の方がその傾向が強いですね。

特に文系的な能力の必要性を感じるのは、実習や就職してからの現場活動が多いでしょう。逆に理系の側面は、体の仕組みや薬についてなど、学校で教えてもらうことが多いです。

理系科目は授業で伸ばすことができますが、文系的な能力はそれまでの経験に則して伸びていくため、もともと文系であった人の方が就職してからが強いでしょう。

文系が作業療法士を目指すために必要なこと

高校の文理選択で文系を選んでいる人は、理系分野であるリハビリ職を目指すことに不安を感じると思います。

「学校に入ってから勉強についていけるだろうか?」「本当に国家試験に合格できるのか?」といった悩みを持った入学希望の方も多いです。

ですが、心配ありません。作業療法士の学校では、文系理系を問わず全員が一から学ぶためのカリキュラムが作られているので安心してください。

高校までの生物や化学で、人体の機能や構造、解剖学の内容まで踏み込んで勉強はしないですよね。そのため、理系の人が有利というわけでもないのです。

また、高校時代に文系を選択していた人の話を聞くと、「高1の時に数学でつまずいてしまったから」「読み物が好きだったから」などの理由であることが多いです。

「数学が苦手なら文系」「本が好きだったら文系」といった科目の得意不得意だけで文理選択を決定することはおすすめできません。

高校の勉強は基礎的なことがほとんどのため、進学してから応用を学んだ結果、理系科目の面白さや新しい才能に気付くことも多くあります。

そして、実習で実感することになりますが、文理の勉強だけでなく、体力や忍耐力も必要になる仕事です。大切なのは、「理系科目が得意かどうか」ではなく、予習復習を日々積み重ねて勉強していくこと。そして「作業療法士になる!」という強い気持ちです。

文系の人はAO入試がおすすめ

「文系だけど作業療法士を目指したい!」という方は、志望する学校の入試方法をチェックしてみましょう。

志望する学校の種類によっては、試験で文系科目を選択できる場合もあります。ですが、センター試験を利用する国公立系の大学であれば、理科系や数学系科目を必須選択しなければならないかもしれません。

専門学校の場合も、一般入試の場合は理数系の試験が課されている場合が多いです。

理系の試験を受けずに入学したいという方は、AO入試や推薦入試を選びましょう。AO入試であれば、人物面が評価されるので面談や小論文が得意な方におすすめですよ。

AO入試については、日本リハビリテーション専門学校の特設ページにより詳しく書いてありますので、一度チェックしてみてください。