2026.03.06
作業療法
監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 英人(作業療法士)
作業療法士にとってSOAP形式での記録作成は、日々の臨床業務に欠かせない重要なスキルです。
患者さんの状態を正確に把握し、多職種と情報を共有するためには、論理的で分かりやすい記録が求められます。
しかし、特に新人や学生にとっては、S・O・A・Pの各項目を適切に書き分け、質の高いアセスメントを行うことに難しさを感じる場面も少なくありません。
この記事では、作業療法士が知るべきSOAPの基本構成から、具体的な書き方のコツ、疾患別の例文までを分かりやすく解説します。
SOAPは、患者さんの情報を整理し、問題点を明確にするための国際的な記録様式です。
主観的情報(S)、客観的情報(O)、評価(A)、計画(P)の4項目で構成され、このフレームワークに沿って記述することで、思考のプロセスが整理されます。
作業療法士だけでなく、医師や看護師、理学療法士など多職種が情報を共有し、一貫性のあるチーム医療を実践する上で不可欠なツールです。
それぞれの項目を正しく理解し、記載することが質の高いリハビリテーション提供の第一歩となります。
Sには、患者さん本人やその家族からの訴えを、できるだけそのままの言葉で記載します。
具体的には、「着替えの時に腕が痛む」「最近、料理をする気になれない」といった発言や、痛み、疲労感、気分の落ち込みなどの自覚症状がこれにあたります。
作業療法士の解釈や判断を加えずに、主観的な情報をありのままに記録することが重要です。
この情報は、患者さんが日常生活で何に困っているのか、どのような希望を持っているのかを理解するための出発点となり、理学療法士をはじめとする他職種との情報共有においても重要な役割を果たします。
Oには、医療従事者が専門的な視点から観察・測定した、事実に基づく客観的な情報を記載します。
具体的には、関節可動域や筋力の測定結果、各種高次脳機能検査の点数、訓練中の動作観察で得られた情報、バイタルサインなどが含まれます。
作業療法士や理学療法士の主観的な解釈は含めず、誰が見ても同じように解釈できる具体的な事実を数値や専門用語を用いて正確に記述することが求められます。
Aは、S(主観的情報)とO(客観的情報)で得られた情報を統合し、作業療法士としての専門的な視点で分析・評価・考察を記述する項目です。
なぜSのような訴えがあり、Oのような状態に至っているのか、その原因や背景を論理的に説明します。
例えば、「右上肢の筋力低下(O)により、本人が訴える更衣動作時の困難さ(S)が生じていると考えられる」のように、SとOの情報を関連付けて問題点を明確化します。
理学療法士など他職種が読んでも、患者さんの現状やリハビリの焦点が理解できるように、根拠に基づいた考察を展開することが重要です。
Pには、A(評価)で明確になった問題点や課題を踏まえ、今後の具体的なリハビリテーション計画を記載します。
この計画には、短期・長期的な目標の設定、その目標を達成するための具体的な訓練内容、介入の頻度や期間、さらには患者さんや家族への指導内容まで含みます。
例えば、「更衣動作の自立を目標に、右上肢の筋力増強訓練と、ボタンエイドを用いた代償的手段の獲得を目指す」のように、Aの評価に基づいた一貫性のある計画を立てます。
理学療法士などチームメンバーが次のアクションを具体的にイメージできるよう、明確な方針を示すことが求められます。
作業療法士が質の高いSOAPを作成するためには、単に各項目を埋めるだけでなく、いくつかのコツを押さえる必要があります。
特に重要なのは、集めた情報を生活課題と結びつけ、論理的なつながりを意識することです。
また、具体的な計画を提示し、誰にでも伝わる平易な言葉で記述することで、チーム医療における情報共有の質を高めることができます。
ここでは、明日からの臨床実践に役立つ4つの具体的なコツを解説します。
作業療法士がSOAPを書く際は、単に関節可動域や筋力の数値を記録するだけでなく、それらが実際の生活場面でどのような課題につながっているのかを明確に記述することが重要です。
例えば、「右肩関節屈曲120度」というOの情報だけでは、他職種にはその影響が伝わりにくいです。
そこで、「右肩関節の可動域制限により、物干し竿に洗濯物を干す動作が困難である」と生活課題に結びつけることで、リハビリの必要性が具体的に伝わります。
理学療法士とも連携し、患者さんの主観的な訴え(S)と客観的な事実(O)を統合し、生活への影響を考察する視点が求められます。
AはSOAPの核心部分であり、単なる情報の繰り返しであってはなりません。
SとOの情報から導き出される問題点の原因を分析し、それに対する今後の見通しを記述することが重要です。
例えば、右上肢の筋力低下により、食事中に箸を落とす場面が見られる。
今後、筋力強化訓練を行うことで、3週間後には補助箸を使わずに食事が可能になる見込みであるといった形で記載します。
理学療法士など他職種にも現状の解釈と予後予測が伝わるよう、論理的かつ具体的に考察を展開することが、質の高いリハビリ計画の立案につながります。
P(計画)では、「リハビリ継続」といった曖昧な表現を避け、A(アセスメント)に基づいた具体的な介入計画を明記することが不可欠です。
目標達成までの道筋が明確になるよう、短期目標と長期目標を設定し、それに応じた訓練内容、頻度、期間を具体的に記述します。
「今後2週間で、ボタンエイドを使用し一人でシャツの着脱が可能になる」のような短期目標と共に、「右上肢筋力強化訓練を週3回実施し、巧緻動作訓練としてペグボードを毎日10分行う」といった具体的なプログラムを提示します。
理学療法士とも連携し、患者さんが自身の進捗を理解できるよう、明確な計画を示すことが重要です。
SOAPは作業療法士だけの記録ではなく、医師や看護師、理学療法士など多職種が閲覧する重要な情報共有ツールです。
そのため、作業療法に特化した専門用語の多用は避け、誰が読んでも理解できる平易な言葉で簡潔に記述する意識が不可欠です。
「上肢リーチ時の肩甲帯の代償運動」といった表現ではなく、「腕を伸ばす際に肩がすくむ動きが見られる」のように、具体的な現象を描写する方が伝わりやすくなります。
情報の受け手がスムーズに内容を理解できることで、チーム全体での円滑な連携が促進され、結果として患者さんへのケアの質向上に貢献します。
アセスメント(A)は、SOAPの中で最も作業療法士の専門性が問われる部分です。
主観的情報(S)と客観的情報(O)を結びつけ、問題の本質を深く考察するプロセスが求められます。
しかし、情報の羅列になったり、考察が浅くなったりと、多くのセラピストがその書き方に悩みます。
ここでは、誰でも論理的なアセスメントが書けるようになるための思考プロセスを、3つの具体的なステップに分けて解説します。
この手順を踏むことで、根拠に基づいた質の高い考察が可能になります。
まず、S(主観的情報)とO(客観的情報)の中から、患者さんの日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)における具体的な問題点をすべてリストアップします。
例えば、Sから「一人で着替えができない」、Oから「ボタンを留めるのに5分以上かかる」といった情報を抽出します。
この段階では解釈を加えず、事実として挙がっている生活上の困難な「作業」を明確にすることが重要です。
理学療法士が主に基本動作能力に着目するのに対し、作業療法士はADL・IADLという生活行為そのものに焦点を当てて問題点を洗い出す視点が特徴です。
次に、ステップ1で抽出したADL・IADL上の問題点が「なぜ」起きているのか、その背景にある原因を分析します。
原因は国際生活機能分類(ICF)の考え方を参考に、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の各レベルで探ります。
例えば、「ボタンが留められない」という問題の背景には、「手指の巧緻性低下」(心身機能)や、「集中力の低下」(心身機能)、「長時間の座位保持が困難」(活動)といった複数の要因が考えられます。
理学療法士とも連携しながら、多角的な視点で原因を深く掘り下げることが、的なアセスメントの土台となります。
最後に、ステップ2で分析した原因とステップ1で抽出した問題点を明確に結びつけ、専門的な視点から今後の改善の見込み(予後予測)を記述します。
例えば、「手指の巧緻性低下(原因)により、ボタン留めが困難(問題点)となっている。巧緻動作訓練を行うことで、2ヶ月後には補助具なしでボタン留めが可能になると予測される」といった形で、因果関係と見通しを論理的に説明します。
理学療法士など他職種が読んでも納得できる、根拠に基づいたリハビリテーションの方向性を示すことが、アセスメントの最終的なゴールです。
ここまではSOAPの基本的な書き方とコツを解説してきましたが、実際の臨床現場では疾患や病期、患者さんの状態によって記載内容は大きく異なります。
回復期、維持期、あるいは在宅など、それぞれの場面で求められる視点も変化します。
そこで、この見出しでは具体的な疾患や場面を想定したSOAPの記入例を紹介します。
脳血管障害、認知症、高次脳機能障害といった作業療法士が多く関わるケースを取り上げ、実践的な書き方のポイントを学びます。
「麻痺した方の腕が袖に通りにくくて、一人で着替えるのが大変だ」
右上肢Br-stageⅢ、肩関節屈曲90°、肘伸展-20°。座位バランス良好。更衣動作は要見守り。ボタン留め、袖通しに時間を要し、疲労の訴えあり。
右上肢の麻痺による筋力低下と関節可動域制限が、更衣動作における袖通しの困難さにつながっている。また、非効率な動作パターンにより体力を消耗している。
右上肢の関節可動域訓練と筋力強化を継続。更衣動作の効率的な手順を指導し、ボタンエイドなどの自助具の導入を検討する。まずはトレーナーの着脱自立を短期目標とする。
この例では、患者の訴えと客観的評価を結びつけ、具体的な目標と計画を示しています。
(妻より)「以前は料理が好きだったのに、最近は全く台所に立とうとしない」
HDS-R18/30点。短期記憶、注意機能の低下あり。リハビリ室での調理活動(野菜炒め)にて、手順の誤りや探し物行動が頻繁に見られ、途中で「もうやめたい」と発言。
認知機能の低下、特に遂行機能障害により、調理の手順を計画・実行することが困難になっている。
その失敗体験が、調理活動への意欲低下(アパシー)を引き起こしていると考えられる。
本人の失敗体験を減らし、達成感を得られるよう、調理工程を細分化し、写真付きの手順書を導入する。
まずは米とぎや野菜洗いなど、慣れた単純な作業から関わりを促す。
この例では、意欲低下の背景にある認知機能の問題を評価し、環境調整によるアプローチを計画しています。
パソコン作業をしていると、簡単な入力ミスばかりしてしまう。集中力が続かない。
TMT-Aは正常範囲だが、TMT-Bでエラーが多発。
PC入力課題(10分間)にて、誤字脱字が15箇所あり。
後半になるにつれてミスが増加。
周囲の物音で頻繁に視線が外れる。
選択的注意および持続的注意の低下がみられる。
これにより、外部からの刺激に注意が逸らされやすく、課題を継続する中で疲労しやすくなり、作業遂行におけるミスを誘発している。
注意機能の維持・向上を目的に、PC入力課題や机上訓練を継続。
作業環境を静かで刺激の少ない場所に調整する。
また、定期的な休憩の導入やセルフモニタリング(誤りがないか自己確認する)の習慣化を促す。
この例では、検査結果と行動観察から注意障害を評価し、具体的な訓練と代償적アプローチを計画しています。
SOAPの書き方を学んでも、実際の臨床では意図せず不適切な記録になってしまうことがあります。
特に新人のうちは、情報の羅列になったり、考察が不十分になったりといった課題に直面しがちです。
これらのNG例は、情報の伝達を妨げ、リハビリテーションの質の低下にもつながりかねません。
ここでは、作業療法士が陥りやすいSOAPの典型的なNG例を3つ取り上げ、どのように改善すれば良いのか、具体的なポイントを解説します。
NG例:「今日は天気がいいね」「朝食はパンだった」「膝が少し痛い」。
このように、患者さんの発言を時系列や関連性なくただ並べるだけでは、問題点を把握するための情報になりません。
改善ポイントは、リハビリの目標や現在の課題に関連する発言を選択して記載することです。
例えば、更衣動作の自立が目標であれば、「今日は腕が上がりにくくて、着替えに時間がかかった」という発言に焦点を当てて記録します。
発言の意図や背景を汲み取り、アセスメントにつながる本質的な情報を抽出する視点が重要です。
この例のように、情報の取捨選択が求められます。
NG例:右上肢筋力MMT3。A:右上肢の筋力が低下している。
これはOに書かれている客観的な事実を、Aでただ繰り返しているだけで、評価や考察になっていません。
改善ポイントは、SとOの情報を統合し、なぜその状態なのかを分析することです。
例えば、A:右上肢の筋力低下により、本人が訴える箸がうまく使えないという状況が生じている。
筋持久力の低下も影響していると考えられるのように、情報同士を関連づけ、原因を推論することがアセスメントの役割です。
この例のように、一歩踏み込んだ分析が必要です。
今後もリハビリを継続する。
これでは、次に何をすべきかが全く分かりません。
誰が読んでも具体的な行動に移せるような計画でなければ、意味がない記録となってしまいます。
改善ポイントは、Aの評価に基づき、目標、期間、具体的な訓練内容、頻度などを明確に記述することです。
今後1ヶ月で食事動作の自立を目標とする。
そのために、右上肢の筋力強化訓練(セラバンド使用)を週3回、箸操作の巧緻動作訓練を毎日15分実施する。
この例のように、具体的なアクションプランを示すことが重要です。
SOAPの書き方を学ぶ中で、多くの作業療法士や学生が共通の疑問を抱きます。
例えば、主観的な情報と客観的な情報の線引きに迷ったり、日々の記録がマンネリ化してしまったり、記録に時間がかかりすぎたりといった悩みです。
これらの疑問は、質の高い記録を作成し、効率的に業務を進める上で避けては通れない壁と言えるでしょう。
ここでは、作業療法士から寄せられるSOAPに関するよくある質問に、簡潔かつ分かりやすく回答します。
Sは患者さんや家族から直接聞いた「訴え」をそのまま記述します。
一方、Oは理学療法士など医療者が観察・測定した「事実」を客観的に記述するものです。
例えば「痛い」はSですが、痛みの程度を数値化したNRSや、痛くて顔をしかめる表情の観察はOになります。
誰が評価しても同じ結果になるものがOと考えると区別しやすいです。
小さな変化に着目することが重要です。
前回の介入に対する患者さんの反応や、ADLのわずかな変化をOで捉え、その変化がなぜ起きたのかをAで考察します。
理学療法士など他職種と連携し、目標の再設定や計画の微修正をPに反映させることで、記録のマンネリ化を防ぎ、思考の深化につながります。
テンプレートや定型文を事前に用意しておくことが有効です。
疾患や症状ごとによく使う評価項目やアセスメントの骨子をまとめておくと、一から文章を作成する手間が省けます。
また、理学療法士など他職種と協力し、リハビリ終了後すぐに要点をメモし、思考が新鮮なうちに記録を完成させる習慣をつけることも時間短縮につながります。
作業療法士にとってSOAPは、患者さんの状態を balance 的確に評価し、質の高いリハビリテーション計画を立案・実行するための重要なツールです。
S・O・A・Pの各項目が持つ意味を正しく理解し、それらを論理的に結びつけることで、思考のプロセスが明確になります。
特にアセスメントでは、単なる情報の繰り返しではなく、生活課題の原因を分析し、今後の見通しを立てる専門的な視点が求められます。
本記事で紹介した書き方のコツや疾患別の例文を参考に、日々の臨床記録の質を高めていくことが、効果的なチーム医療の実践と患者さんの機能回復に繋がります。
監修:日本リハビリテーション専門学校 阿部 英人(作業療法士)
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